第一章

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皇一は今、自室で本を読んでいる。 隣の寝室ではもう時期2歳になる愛娘と、愛する妻リコが眠っている。 女の子とは思えないほどやんちゃな娘はまだまだ目が離せず、子育てに追われるリコはクタクタのようだ。 皇一も保育士という仕事柄幼児には慣れているが、仕事として他人の子供を扱うのと、自分の子供を育てるというのは次元が全く違う。 それでも夫婦2人で出来ることを分担し、小さな命を守ろうと日々必死に生活している。 そろそろ自分も布団に入ろうかと思った時、携帯が鳴った。 4年程前、自分が婚活をしていた頃に知り合った年上の女からのメールだった。 あの時で50歳くらいと言っていただろうか。さすがにその年齢で独身ということもあり、自分の容姿にはお金を使っているようだった。 皇一が東京に引っ越すかどうか悩んだ時に相談に乗ってもらい、結局彼女の言葉で背中を押されて東京に行くことを決めた。 リコへのプロポーズの決心も、彼女のおかげでついた。 メールを開くと彼女の近況報告が綴られていた。 「皇一君、元気にしていますか。とても久しぶりね。東京での暮らしはどう? 私はあれから結婚したんだけど、離婚もしました。 激動の一年。何だか皇一君に聞いてもらいたくてメールをしました。 急にこんなメールでびっくりさせてしまったわね。 返事はいりません。それでは。」 皇一は、なぜだかメールを読みながら鳥肌が立った。何故急にこんなメールを寄越したのだろう。自分が東京に越して来て以来、一度も連絡を取り合った事はなかった。返事はいらないとあるが、礼儀上することにする。 自分が結婚して子どもまで授かった事は伝えない方が良い気がした。 「信子さん、お久しぶりです。何とか東京でもうまくやっています。  大変な一年だったんですね。これからまた、良いことがたくさん待ってると思います。お互い頑張りましょう。」 当たり障りのないメールを返信する。 何となく、これ以上メールが来なければいいと思いながら。
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