第一章

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信子はクタクタだったが、晴れやかな気持ちになっていた。家族が欲しい、という自分の思いに対して一歩前進したのだ。 高揚した気分のまま信子は帰り道のデパートに寄った。先程の相談所で、月に一度は会員限定のパーティーがあると言っていた。無論、積極的に参加するつもりだが、パーティーなど今まで行ったことがない。結婚式の披露宴に出席するのとはまた別物だろう。 とにかく、華やかな場所に着ていく洋服がなかった。 色とりどりの洋服が並ぶ中、信子はワンピースを二着買った。数年前よりもサイズが3も上になってしまったことにはギョッとしたが、もともとかなりスリムだった自分が少し膨よかになったとしてもさほど問題はないだろう。 髪の毛をきっちりと巻き、店のブランドの服を着こなした店員に勧められるまま、大ぶりな花柄のワンピースと無地の淡い紫色のワンピースを購入した。 「寒くなったら、お手持ちのカーディガンやコートを羽織っていただければ、長いシーズン着ていただくことができますよ。」 試着室の外から、あの店員は営業用の笑い声で言った。 帰ったら、早速自分のクローゼットのカーディガンと合わせてみよう。 信子は踊りたくなるような、軽やかな足取りで家に帰ってきた。 手を洗い、台所で中国茶を淹れるための湯を沸かすと、結婚相談所で渡された紙袋から様々なパンフレットを取り出してみた。 見れば、結婚会場の案内まである。 気が早いのではないかと思いながらも、ページをめくってみると純白のドレスに身を包んだ女性と、タキシード姿の男性が大きな笑顔で写っている写真が見開きで載っていた。 あまりに眩しすぎる写真にたじろぎ、信子はパンフレットを閉じる。 不意に、B5版の一枚の紙がするりと落ちた。 拾ってみると「占いの館 魔女の巣」とある。 占いの2文字に気を取られかけた時、コンロにかけていたケトルがカタカタとなった。 中国茶を丁寧に入れ、テーブルにカップを置くと改めて「魔女の巣」のチラシを手にとった。 そこには、魔女の巣の住所や電話番号、ホームページやメールアドレスの他に「あなたの運勢占います」という文字だけが記載されていた。 他の婚活パーティーの案内や、結婚指輪のパンフレットとは違い、白黒で地味なチラシだった。そう、パンフレットなどというよりも「チラシ」というのがぴったりな代物だったのだ。 普通の人なら捨ててしまうかもしれないが、占いにハマっている信子には興味があった。 雑誌やインターネットでは占いを貪るように読んだが、実際の占い師には会った事がない。会いに行くものだと思ってもいなかった。 しかも、少しバスに乗れば行ける距離なのだ。信子は、このチラシを大事に紙袋にしまった。 そして自分のノートパソコンを立ち上げ、先程の相談所のホームページにアクセスし、登録してもらったパスワードを打ち込んだ。
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