僕らはただの友達で

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 聞こえよがしに陰口を叩かれ、物を隠され、体操着に穴を開けられ、靴を奪われた。  それでも彼女は泣きもせず、怒りもせず、ただ真っ向から「何の意味があるんですか?」と尋ねた。イジメはエスカレートした。 「ねえ、あの子達はなんでこんなことするんでしょう?」  当時の席替えで隣り合わせになっていた僕を、彼女は無遠慮に巻き込む。  当時の僕たちは初対面で、会話もそれが初めてだった。 「君がフッた男の子が、あの子達のリーダー格のお気に入りだったんだよ」 「そうなんだー、知らなかったです」 「だろうね」  正直、巻き込まれたくはなかった。  けれど彼女と話すにつれ、自分がどんどん彼女に引き込まれていると悟った。  それでも彼女との会話を拒絶しなかったのは、イジメの片棒を担ぎたくなかっただけに過ぎない。 「君は、優しいですね」  その一言は、唐突だった。 「何が?」 「私と口を利いてくれるじゃないですかー。皆、嫌がって喋ってくれないんですよ」  天月はイジメられている。クラスでも上位のヒエラルキーに位置する女子達に。  だから、厄介事に巻き込まれたくない他の生徒や教師達は、彼女を腫れ物みたいに扱う。  孤立する彼女を隣席で眺めさせられる僕にとっては、ただただ不快でしかない。 「勘違いするなよ。イジメられてる人間=価値が低い人間、って訳じゃない」  いい加減、限界だった。  汚い所を恥ずかしげもなく晒すイジメっ子達が。自分大事に、お得意の偽善すらも示せなくなった同級生達が。自分の仕事が増えるのを嫌って、イジメを黙殺する教師が。  そして何より、何の行動もしない、天月自身が。腹立たしくて仕方なかった。 「君は、このままでいいのか?」  長らく眠っていた「拒絶」が、もう一度鎌首をもたげた音がした。
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