僕らはただの友達で

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 どこかで誰かが困る度に、彼女はその手を差し伸べた。何度でも、どこにいても。  ある時は木に掛かった風船を取ってあげ、またある時は車に轢かれた野良犬を看取る。僕はその綺麗な姿を、隣で見ていたかったのかもしれない。  けれどその優しさは後付けのブックカバーみたいで、取って付けられた物でしかなくて。  用が済めば、彼女は助けた人間に見向きもしない。  彼女はただ、純粋な優しさだけを求めていたのだから。 「涙は呪いです」  と彼女は言った。優しさがあれば、涙なんていらない、と。  僕は言った。 「涙は恩恵だよ」  涙は優しさを教えてくれる、先生なんだ。  つまるところ、僕たちの意見はいつだってすれ違っていた。  けれど僕らは、それでよかった。お互いに決定的な価値観の違いを持つからこそ、いつだって新鮮な言葉を知ることが出来る。  僕には、それで十分だった。そう、思ったふりをしていた。 「ねえ、二条くん」  けれど、彼女は、天月は決して足踏みをしない少女だった。 「私たち、付き合い、ませんか?」
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