僕らはただの友達で

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 夏の蝉時雨。群青に沈む、暮れの空。  少しうつむいた、天月の顔。その頬が赤らんでいるように見えて、思わず息を飲む。  彼女を好きになったのは、好きと言われてからだったような気もするし、ずっと前からだった気もする。  気付けばいつだって視界の端には天月がいたし、いつの間にか彼女を目で追っていたこともあった。  教室に入れば真っ先に彼女を探した。見付けた時は、心が踊った。  何の気なしに話しかけようとして、でもその「何の気なし」が、一番難しくて。  冷静に考えれば、なんでそんなに話しかけたいのかもわからなくて。  そんな自分に気付くたびに、鼓動は叫んで、痛みにも似た感覚が心臓を刺して。  目を離しても、心臓はチクチクと落ち着かない。    思い返せば、もうこの時の僕は、自分の感情を抑えきれなくなったのかもしれない。  この人と一緒にいたい──と、純粋に想う自分。  「好き」以外の言葉でこの感情の名を探す自分。  二人の自分が、胸の中で喧嘩する。  ひどく素直に、けれど、残酷なまでに。彼女を綺麗だと思う自分に、気付いてしまっていた。 「うん、よろこんで」  たぶん、心からの返事ができたと思う。  自分の事も、相手の事も、過去も未来も気にせずに。純粋な好意で、返事ができたと思う。 「え、本当に、いいんですか? 私、あまり相手の事考えられませんよ?」  告白は天月からだった。けれど、彼女には自信がなかった。  もじもじと指を絡ませて、頬をより一層紅潮させる。 「知ってるよ、今さらだ」  それに、その誰にも汚されない美しさに惚れたのだから、僕が言うべきことはない。 「迷惑だって、かけるし……」 「それも今さらだ」 「それでも、私なんかで、いいんですか?」  不安げに見上げた瞳が、熱を帯びて僕を見つめる。僕はきっぱりと言い切った。
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