忘れん坊の泥棒

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「いつまで経っても、私はノーベルにはなれないんだ」  白人のように白いザハロフさんの肌を、汗が這い落ちる。 「世界大戦を起こしたザハロフと、人肉を担保に金を貸したシャイロック。ダイナマイトを発明して、世界を爆発させたノーベル。  やったことは紛れもない「悪」なのに、嫌われるのはいつも私たちユダヤ人なんだ。全く以て、損な役割さ」  彼女はもちろん、ユダヤ人ではない。  僕たちと同じ日本人で、プロフィールは教えてくれないけれど、きっと歳だって十も違わないだろう。  けれどそんなことは些細なことで、一高校生である僕には、何の関係もない。 「それで、今日はこの武器商人に何の用だい?」 「忘れん坊の泥棒についてです」  レジに併設されたカウンターに座り、本題を切り出した。  駄菓子屋のザハロフさんは、不思議と見識が広い。その知識を活かして、よく子供たちを集めて都市伝説を聞かせては、その怯える様子を楽しんでいる。 「ふむ、そいつはまあ随分と、突飛な話だねぇ。その手の話題、ニィ君は興味ないと思ってたよ」 「まさか、僕だって年頃の高校生ですよ?」  言いつつ、買ったばかりのチョコを口に放り込む。安っぽくて甘ったるい味が、少しささくれだった心を落ち着かせる。 「噂話くらい、興味ありますよ」 「へぇー、じゃあそのお子ちゃまは、忘れん坊の泥棒の何を知りたいんだい?」  からかうような口調でバサロフさんは謳う。  その言葉に、少し苛つく。初めは自分が言った事だけど、高校生とお子ちゃまは違う。 「忘れん坊の泥棒が十年前にかけた呪いの解き方と、盗んだ少女の行方を」
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