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「ま何にせよ、この程度の呪いなら誰でも出来るさ。今みたいに、タバコを吸うだけでいい。ただ君が私に聞きたいのは、「泥棒が他者を魔術的なサムシングで不幸にするか」って所だろうね」
乾いた唇に吸い口を転がすザハロフさんは、不思議と絵になった。
きっと彼女のような人を、タバコを吸うのが上手い、と言うのだろう。
タバコを知らない僕でもうっすらと勘づくほど、彼女の吐き出すショートピースは上品な匂いがした。
「このタバコだって、一種の呪いさ。受動喫煙させた人間の発がん性リスクを高める。じわじわと、相手を苦しめる」
「ま、ショートピースみたいな両切りでやるのは、ちょっと勿体無いけどね」と溜め息がちに火を揉み消す。ザハロフさんのタバコはかなり高いらしい。
「さて本題だが、どうだろう。彼女は自分が歪めた未来まで知っているからねぇ」
甘い残り香が漂う中で、ザハロフさんは嘲るように嗤う。
それは甘い紫煙と相まって、ひどく艶やかに、けれどひどく哀しげに映って見えた。
「やっぱり、泥棒は実在するんですね」
「おや、なぜそう思うんだい?」
誘導尋問にも似た言葉に、ザハロフさんの眉がピクリと吊り上がる。
「彼女。ザハロフさん、今そう言いましたよね。なぜ性別に触れられていない都市伝説の存在を「女性」と決めつけたんですか?」
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