忘れん坊の泥棒

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 忘れん坊の泥棒は、その逸話にしか注目されない。性別は端から噂にもならなくて、その特異性のみが独り歩きした。  元はと言えば、僕らの通う遠光台高校の三年生が流した噂らしい。所詮は高校生が作ったような、安い都市伝説に過ぎないのだ。 「鋭い、ノーベルしょーものだ。でもそこからは別料金、何か買ってきな」  ニヒルに口角を釣り上げて、白く細い指が駄菓子の詰まった陳列棚を指さす。 「じゃあ、この五円玉っぽいチョコを」 「出た、安くて美味しい。でも売る側的には会計の度に『もっと単価高いの買ってほしいなぁ』って思う五円玉のチョコレート。毎度毎度ありがとサンでっ」  半ばやけくそ気味の言葉は、セミの合唱に重なって消えていく。  気にせず五円を払って、席に着いた。立て付けの悪い錆びたパイプ椅子が、キィと鳴いた。 「んじゃあ、結論から申し上げましょうか」  猫みたいに緩慢な動作で背を逸らして、ザハロフさんは僕を覗き込む。  栗色と、深い黒。木々の梢に覗く暗がりみたいに、彼女の茶の眼はいつも暗く沈んでいる。 「泥棒の呪い、あるよ」  ザハロフさんの口調は都市伝説を語るには不釣り合いなほど、確定的な何かを含んでいるように聞こえた。 
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