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翌日。
学校で出会った彼は僕を見て「誰?」と言った。少女のことを尋ねても「妹なんていないけど」と言った。周りも、知らないと言う。
《どうだい、哀れな少女を盗んであげたよ? 暴力的な少年との仲は、ま、おまけさね》
彼女はいなかった。一組にも、二組にも、三組にも四組にも。
貴重な昼休みを使っても少女は見つからなくて、午後の授業を告げる予令の中、一人教室の机にしな垂れかかる。
盗まれた彼女は、それきり僕の前に姿を見なかった。
その誰にも知られない事件から、僕は忘れん坊の泥棒を、心の底から怖いと思うようになった。
「もう、喋りかけないでください……」
《おやおや、ついに嫌われちゃったかい?》
「お願いです。あなたが盗むと、僕が泥棒になったみたいな気分になるんです」
僕が拒絶して、彼女が盗む度、自分の中で、忘れん坊の泥棒の存在が強くなっていく。
僕が覚えているものが世界から忘れられていく度、自分こそが泥棒なのだと錯覚してしまう。
《まあ、仕方ないさね。得てして泥棒は、忌み嫌われる鼻摘み者だからねぇ。いいだろうさ、さよならだ》
頭の中で嘆息が零れて、思考がぼやける。
遅くまで外で遊んだ時みたいに。夕飯時に襲い来る睡魔みたいな心地よさが、疲れた体にのしかかる。
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