人が死にました

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「お前、夏休みどうすんだ?」  茹だる夏の直射日光に項垂れていると、頭上から声が降ってくる。 「どうせ暇だろ? どっかいこーぜ」 「残念、ほとんど埋まってるよ」  忘れん坊の泥棒を探すんだ、と言うと、友崎の怪訝な顔が見られた。 「忘れん坊の泥棒? お前が七不思議か」 「なんだよ」 「いや、珍しいなー、と思ってさ」  行き交う車の流れを眺めながら、友崎がポツリと溢す。 「で、誰と?」 「んー、天月と」 「え、あいつ?」  気だるく返した答えに、友崎の声音が沈む。  アイスの僅かな残りが溢れて、アスファルトの上に黒いシミを描く。 「なあ、止めとけよ」 「なんで」 「なんでって……」  零れ落ちた溜め息の中に、友崎の躊躇いが見えた。  彼の躊躇は初めて見る。彼との付き合いはまだ二年目だけど、教室で過ごした時間で言えば、他の誰よりも長い。  下手に会話をしない天月よりも、比較的何でも話せるのが友崎だった。 「知らねぇの? あいつ、殺害予告されてるって噂だぜ?」  殺害予告。  唐突に転び出た非日常的な単語の意味をなぞって、眺めて、またなぞる。 (天月が、殺される)  いくら反芻しても、衝撃はない。現実味も、上手く仕事をしてくれない。 「それも七不思議?」 「ちっげーよ、マジなんだって。最近ホラ、連続強盗殺人だってあんじゃん!」  友崎の振り回したソーダバーが飛び散って、剥き出しの太陽が威張る空に溶けていった。  先端の丸い棒が現れて、そのアイスに隠れていた文字が、少しだけ顔を覗かせる。嫌な予感がした。 「なあ、巻き込まれるって、やめとけって。な?」  心配そうに覗き込む友崎と目が合った。  大丈夫だよ、と返して、一気にソーダバーを齧る。覗いた棒に、文字はない。 「それに、もしそれが本当なら、学校だって何かしらの反応するでしょ」  行き交う車に反射する日光が煩わしい。  こんな山田舎のどこにこれ程の車があるのかと、不思議に思う。 「してただろ、呼び出されてたじゃん、天月」 「それ、いつ?」 「一週間前、数学のテストが終わった後、すぐ。警察にも行ったらしいぜ」 「ふーん」  期末テスト中日の数学は酷かった。解けた問題は半分しかなくて、そして正解していた問題は、それよりさらに少なかった。  正直、天月どころではなかったのかもしれない。
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