人が死にました

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「おい、二条」  真っすぐな声音に、咎めるような色が混じった。 「お前さ、なんでそんな天月のこと避けんの?」 「避けてない」 「嘘だろ。全部」  否定の声は、いよいよ大きくなった友崎の声にかき消される。  結局友達も他人に過ぎないというのに、友崎の顔は悲しげに、悔しげに歪んでいた。 「お前、元カノのこと忘れたいから、全部上っ面だけで否定して、考えんの止めてんだろ。そうすりゃいつか、本当に嫌いになれるって信じて」 「うるさいな、お前に」  何がわかるっていうんだ。  激情のままに吐き出そうとした言葉が、胸に刺さった。  誰も人の気持ちなんてわからない。それは僕も同じだった。  天月の気持ちなんて、わかりっこない。 「……仮に天月の殺害予告が本当なら、僕はどうすればいいんだ」  天月が殺害予告を出されて怯えている姿なんて、想像できない。  少なくとも図書室で話した二日とも、彼女が怯えているようには見えなかった。 「話、聞いてやれよ。それができんの、二条だけじゃん」 「僕はそんな大層なもんじゃない」  僕に何かできること。そんなことは端から無いに等しくて。でもそれが、悔しいことも確かで。  僕はただ、アスファルトに引っ張られていくソーダバーを見下ろしている。半分溶けた塊が、落下と同時に崩れて溶けた。 「俺、もう止めねぇからな」  食べ終わったアイスの棒を食んで、友崎がポツリと溢す。  その言葉の真意を知りたかったけれど、黒く湿った棒に「あたり」と書いてあるのを見て、止めておいた。 「らっきー、あたりじゃん!」 「よかったね」 「ちょっと交換してくる!」  一転、興奮した友崎が遠ざかる。  友崎にはあって、僕にはないアイスの当り。僕にはあって、友崎にはない数Ⅱの赤点。 (交換してほしい……)  ぼんやりと思いつつ、暑苦しく白んだ空を見上げた。  青くて、白い、夏の空。  蝉と太陽に飾られた空は無駄に明るくて、何もしていないのに罰を受けている気分になる。 「夏休み、かぁ……」  明日から夏休みが始まる。  皆が宿題の山と戦って、学校のアルバイト禁止令を破って、密かに小遣い稼ぎに奔走する、夏が。  僕はこの夏、どこに行けるのだろう?  天月と忘れん坊の泥棒を見付けて、彼女に送られた殺害予告を笑い飛ばせるようになるのだろうか。  学校の宿題は、期限が過ぎても提出できる。  けれどこの宿題は、この夏にしか見つけられない、大きな命題だった。
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