僕は優しくない

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 嘘だろ、と思った。  これは質の悪いドッキリで、実は今も、友崎が柱の陰からカメラを回してるんじゃないか、としか思えなかった。  だって、そうじゃないか。  芸能人でもない、ただの女の子が、誰かの殺しの対象になるなんて信じられない。現実味が、ない。 「否定しないの?」 「ええ、だってほんとですもん」  けれど天月は否定しなかった。  大切な人の死を知らない僕にとって、死は余りにも遠い、蜃気楼みたいな存在。  それを目の前の、ずっと近くにいた少女が一番死に近いかもしれないなんて、どうしても考えられない。 『話、聞いてやれよ。それができんの、二条だけじゃん』  友崎の言葉を思い出す。  言われた瞬間だって、一夜明けた今だって、僕が話を聞く意味は分からない。  けれど、天月が僕の立場なら。きっと彼女は声をかけるのだろう。  だから僕は、精一杯平静を装って声をかける。 「犯人に心当たりはないの?」 「ない、ですね」  無表情に答えた天月は人形みたいで、まるで自分のことなんて興味がないようだった。 「最近何か変わったこととかは?」 「ないです」 「警察はなんて?」 「実害がないから人員は裂けない、って」  警察も優しくないですねぇ、と缶に口付ける。  天月の声音は、どこまでも他人事のような白々しさを滲ませていた。 「やっぱり、現実味、ないよ」 「わかってます」  起伏のない表情を目の前の改札に向けて、天月は呟く。  首肯しないその小さな頭からは、長い黒髪が滝のように流れ落ちている。 「でも、どうせ世界が優しくなったら、私はその世界にいられませんから」 「自殺でもするつもり?」 「あー、それもいいかもですね」  内心の動揺を、隠すように発した冗談。  けれどそれは、何の感情もない声に同意されてしまう。  ふざけるな、と思った。それじゃあ初めから、天月は死ぬつもりなんじゃないか、と。 「勝手にしろよ」 「冗談ですよ」 「冗談でも、言っていいことと悪いことがあるよ」  本当に言いたいこと。けれど、言えなかったこと。  返す言葉が見つからないのなら、その全てはどうでもよくて。ただ居心地の悪い話を終わらせようと、僕は言葉を吐き捨てる。
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