《Karte1 オオカミとウサギ》 No.1 欠けた月の夜に

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 がばりと身を起こし、ベッドから飛び出すと洗面所へ直行した。  鏡に映る自分の姿。高三にしては人生経験を積んでそうな、よく言えば大人びた、悪く言えば老けて見える、特に意味もなく威圧感の溢れる顔……ここまでは毎日見ている。  問題なのは、凄くリアルで野性味溢れる灰色の立ち耳が、自分の頭から生えているようにしか見えないこと。さらに問題なことに、それが意のままに動く……。  尾てい骨辺りにも違和感がある。体を捻って見下ろすと、そこには大層立派な大型犬のしっぽのようなものが垂れ下がっている。  耳と同色の長めの前髪を摘み、下唇を噛んだ。 「くそっ……まさかとは思ってたけど……やっぱりそうなのか」  今朝鏡を見た時、脱色したみたいに髪が灰色になっていた。  身に覚えがなく、寝てる間に母さんがイタズラしたのかと疑ったけれど、息子の変貌に驚く反応は演技には見えず、俺は「ちょっとイメチェン」なんてらしくない一言で誤魔化した。  その時頭をよぎった可能性は、確信に変わった。  寝ている間に宇宙人に改造されたとか、十八年と数ヶ月間気づかなかっただけで自分は本当は犬だったとか、そんな非現実的な妄想に囚われずに済んでいるのは、原因の見当がついているからだ。  これは病気だ。でもまさか、まさか自分が被害に遭うとは思っていなかった。  こういうときの為の専門相談所があることは知っているけれど、あそこは駄目だ。  ドキュメンタリー番組とかで見かけるたびに、なんだか胡散臭いという感想が積もっていく。ネットでは、実験台にされるなんて噂もある。  悶々としながら自室に戻り、スマートフォンで時間を確認する。深夜二時過ぎ。  カレンダーのアプリを開き、翌日の記入欄にある予定を確認すると、少しだけ気持ちが落ち着いた。 「……とりあえず、明日だ……」  今はどうしようもない。朝を待つしかない。  そう自分に言い聞かせてベッドに転がったものの、ここですんなり眠れる程図太くはなかった。  なんだか無性に果物が食べたい。空腹感が睡眠の邪魔をする。  結局食欲に負けた俺は、深夜だというのにコートを羽織り、フードを被って玄関へと向かった。
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