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No.2 不審者2名
深夜のコンビニなんて、いつぶりだろうか。
店内には、寝ぐせのはねた青年の店員と俺しかいない。
レジカウンターにバナナを置くと、それを覇気のない店員が袋に入れる。そんなやり取りの中で、なぜか俺は居心地の悪さを感じていた。
緊張している。淡々と接客の手順を進める店員から、わけもなく逃げ出したい。
妙な感覚。敵意……というより、悪意。そんなものを本能が嗅ぎ取る。
彼はろくに目も合わさずお釣りを差し出してきたのに、なんだか睨まれているような気分だ。
受け取った小銭をもたつきながら財布に入れ、そそくさとレジを後にした。
自動ドアが開いて店内に冷気が入る。店を出た時、
『ったく、ここの店って深夜は客こねーんじゃねーのかよ。今日これで六人目だぞ』
愚痴る声が聞こえた。はっきりと耳に届いたけれど、ボリュームを抑えたひとり言だとわかる。彼は、俺に聞かれたなんて思っていないだろう。
「……なんてこった」
明らかに、俺の身体はおかしくなっている。外見だけの変化じゃない。
この抑えきれない食欲も、きっと症状のひとつなのだろう。
右手の袋を見下ろす。今すぐにでも黄色い皮をひん剥いてかぶりつき、食欲を満たしたい。でも、深夜で人目につかないとはいえ、コンビニ前での立ち食いは行儀が悪い。と、そこそこ真面目に生きてきた俺は考えてしまう。
小心者の性が、せめてどこかで座って食べようと妥協案を出した。
二分も歩けば庭園がある。
近頃はどこも、庶民的でこじんまりとした公園がめっきり減って、やたらと広大で大抵洒落た雰囲気の施設ばかりになった。
昼間は子供連れのママ友集団が井戸端会議をしたり、夕方にはキッチンカーが来て暇を持て余した中高生が列を作ったりして賑わっている。
「さすがにこの時間帯なら、俺だけだよな」
少し歩くと緑豊かな敷地が見えた。手入れの行き届いた、比較的控え目な広さの庭園だ。
門から中へと続く街灯には、数種類の花をこれでもかと植えこんだ吊り篭が、イヤリングのようにふたつ並んで揺れている。
コンビニ袋をぶら下げて、俯き加減で屋根付きのベンチまで来たところで――
「オオカミ君……っ?」
女の子の声が上から聞こえた。
びくりとして、思わずファー付きのフードを押さえる。
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