42話

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42話

「桜蝶一家圧勝〜!!」 「「わぁぁ!」」 皆でそう喜びを噛み締めている時。空波一家は皆ボロボロで、床から這い上がることもできないほどクタクタになっていた。…流石にやり過ぎだったような。そう罪悪感を感じつつ、リーダーの元へ足を伸ばす。 「えっと…大丈夫?」 「……完敗ですよ。」 リーダーは悔しそうに笑ってみせたが、殴られたお腹が痛むのか、すぐに顔を顰めた。 「うっ…、はぁ。知ってますか?裏切り者の末路はこの世界じゃあ死よりも残酷なんです。」 乾いた笑い声をこぼす彼に私は真剣な顔付きで頷いた。それを見たリーダーは、顔を歪めながらも必死で起き上がろうと腕に力を込める。その動きに、浮かれていた桜蝶一家の皆は警戒の眼差しを向ける。 「ボス、気をつけてくださいよ。何するか分かったもんじゃない。」 「バカ言わないで。こんな体で何も出来ないわよ。」 やっとこのとで上半身を起き上がらせた彼は、そのまま前に深く頭を下げる。まさに土下座状態だ。 「ですので今回の事、罰を受けるのは私めだけにしては下さらないでしょうか。」 え…。いきなりの事で、どう返事したら…と困っている私に対し、桜蝶一家の皆は口々に彼を非難した。 「はぁ?それを承知で裏切ったんだろーが。」 「今更何言ってんだか。」 しかし彼は頭を上げることなく、ただ私に懇願する。 「お願いします…。これは私の、私だけの責任なんです。だから…。」 そう言われ、チラリと周りの空波一家を見てみると、皆体は動かせないものの、一生懸命声を振り絞っていた。 「違…リーダ、だけじゃ。俺、も…。」 途切れ途切れの言葉だが、何を言いたいのかはちゃんと理解できた。組内での裏切り…確かに許される行為ではないのだろう。……けど、 「私はあなたにも、もちろんお仲間さんにもそんな厳しい罰を与える気はありませんよ。安心してください。」 許されないなんて、誰が決めたの?それは法にでも触れることなの?私はそんな昔からある概念なんて全て捨ててしまうわ。私が許せなかったら、許せない。許せることだったら許す。それだけよ。 「「え…?」」 空波一家と桜蝶一家の声が重なる。どちらも有り得ないという顔を向け、口をパクパクとさせた。 「何でですか!!」 そう迫ってきたのは桜蝶一家の皆だった。空波一家の皆は声を出す力さえも残っていないようで、ただその様子を見つめていた。 「裏切ったんですよ!?ボスの首を狙ってたのに!」 「だって私、最終的に何もなかったじゃない?」 「何も無くたって、危機的状況を作ったのはアッチッスよ。それ相応の責任ってものが…。」 「分かってる。皆が言いたいことは分かってる。…でもね、私彼らが欲しいの。」 私の発言に、さっきまでうるさかったみんなの口が開いたまま閉じなくなる。ポカーンと口を開け、私を見つめるみんなの姿は、なぜか無性に面白くて、でも頑張って我慢して言葉を続けた。 「ここまで計画を練ってそれを実行できる彼らを、本家に欲しいと思ったの。皆も思わなかった?計画だけでない、あの連携。中々出来ることじゃないわ。そんな彼らが本家にいてくれれば、この組はもっと内側から強くなれると思うの。…だーかーら、彼らの罰は本家に入って皆の力になってもらうこと。……ダメかな?」 私のその判断に、皆は顔を見合せモゴモゴと話をし始める。皆にとって、裏切りと言う行為はやはり許せないものなのだろうか…。そう考えていると、後ろからポンと肩を叩かれレオンがやれやれという顔で皆に声をかけた。 「お前ら、コイツとどんだけ一緒に過ごしてたんだよ。コイツが突拍子もないことを言うのは今に始まったことじゃねぇだろ。んでどーすんだ?お前らのボスに従うのか従わねぇのか。」 すると皆は口々に、 「んー、確かに今始まったことじゃないな。」 「流石レオンさんは慣れておられる。」 「いや、俺らもこれに慣れてかないといけねぇんだからな?」 「うわー、常識って何?ってなる。」 貶されているのかどうなのか分からないが、レオンの言葉で彼らが私の考えに前向きになったのは確かだった。 「それじゃあ、皆それでいいのね?」 「「はい、ボス!」」 それから床に人が寝そべったままの状態でありながらも、平和になった空間に私達は互いに笑い合った。…レオンのせいで、皆に私は無茶振りを言う人みたいになったのは解せないけれど。すると、 「平和だねぇ。」 聞き慣れた声に、振り返ってみると割られた窓からルイさんが顔を出してこちらを覗き込んでいた。 「ルイさん!?」 どうして!?なんで!?意外な人物の登場に驚きを隠せないでいると、ルイさんは全く…とため息をついた。 「安心するのはいいけど、外にいる奴らのこと忘れてたでしょ。」 「「あ。」」 私とレオンの声が被った。そういえば、室内に14人と外に6人いたんだった…。全くもって気づかなかった私に、ルイさんはからかうような笑みを浮かべた。 「まだそーいうところは、警戒が足りてないなぁ。」 「…それで外にいた人はどうなったんです?」 恐る恐るそう聞く私に、ルイさんはケロッとして答えた。 「え、のびてるけど。」 あぁ…やっぱり。ルイさんがほっとくわけが無いよな、と思いつつ外にいる人達の姿を想像する。手加減は…されてないだろうな、うん。 「それよりもどうしてここに?」 「そりゃサクラちゃんを助けて、カッコイイところを見せるためだよ。…レオン君にだけ良い思いはさせたくないじゃん?」 「おい。」 相変わらず2人は睨み合いを始め、全く変わらないな…と思いながらも、前よりは少し仲良くなっているような気がしたのは内緒。 それから何か忘れているような…と部屋を見渡すと、部屋の端っこに父と母がまだ小さくなっていて、私達は再び『あ、』と顔を合わせた。それから小さくクスッと笑い合い、後に声を上げるほど大笑いしてしまった。何が面白いのかも分からなかったが、ただひたすら笑い続けた。あんなにも大きかった両親の存在が、いつの間にかこれっぽっちも私の中には残っていなかったのだ。
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