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25話
「ルイ様、私には分かりません。なぜわざわざ敵組をココに入れたのですか。」
生徒会長書記のカナデという女子がルイにそう話しかけた。同じ部屋に私がいるのを分かってて、聞こえるように話している。
「君が知る必要はないよ、カナデ。」
「ですが…!」
「私もカナデと同意見です。教えてください。」
カナデの抗議の声を遮り、野太い声の男が話に割って入ってきた。同じく生徒会長会計のタイト。どちらも私が生徒会に入ったことを良く思っていないようだ。けれどそれは私だって同じ。私だってこんなところ、入りたくなんてなかったわ。
生徒会副会長として生徒会に入り数日が過ぎた。ほぼ毎日放課後集まり、会長…つまりはルイさんの手伝い。真面目に学校の仕事をしているが、たまにただ話したいだけと呼び出すこともあり、私も我慢の限界がきている。…それにまだ生徒会のことを、レオンに話せていない。どんな顔をするか目に見えているため、中々言い出せずにいる。
「今まで私達だけで十分滞りなく進んでいました。どうして新しい人を入れる必要があるのですか!」
「そうですよ。それによりによって一番の敵でたる桜蝶一家だなんて…どういうことなんですか。」
私だけじゃない。カナデさんやタイトさんも我慢の限界なのだろう。あの逆らわず従順にの月森組の人達がルイさんに説明を求めるなんて、余程の事だ。でも…
「君達がそれを知ったとして何になる?無意味なことを僕はする気ないよ。」
「し、しかし…。」
「黙れ。」
狼狽える2人をルイさんは鋭い視線で睨んだ。まるで人が変わったかのように、さっきとは全く雰囲気が違う。穏やかな空気が一気に冷め、凍りついた。
「僕が決めたことにケチつける気か?」
「「…いいえ、申し訳ありませんでした。」」
その様子を横目で見ながら、私はため息が出た。やっぱりそうなるわよね。月森組の方針は絶対服従。他の人が何を言おうと、長が決めたことは絶対なのだ。それを分かっていながら説明を求めるなんて、結果は目に見えているのに。
「あ、」
「「どうかいたしましたか?」」
静かに皆で作業している中、やらかしたかのような声を上げたルイさんに過敏に反応する2人。
「ペンのインクが切れたみたいだ…。悪いが2人とも買い出しに行ってくれないか?」
そう言ったルイさんの言葉に、2人はすぐに答えを出せず考え込んでいた。どうしたんだろう?
「ルイ様、私達が行けばこの部屋には、アナタ様は桜蝶一家の長と2人だけになります。」
「うん、それが?」
「『それが』って…。これがどんなに危険なことがご理解ください!もしそれをいい事に、この方にルイ様が戦われでもしたら…。」
あぁ、なるほど。そういうことね。真剣に話している最中、部外者である私は緊張感皆無でそんなことを考えていた。彼らは、騙しで勢力を上げてきたため、暴力では勝てない。もし私が彼を襲っては太刀打ちできないのでは、と考えているのだろう。負けたらその時月森組は終わってしまい、桜蝶一家が勢力1位にのしあがる。騙しで有名になってしまった月森組を警戒しない組なんていないだろう。そのためそこから勢力を上げることも難しくなる。心配するのは当たり前なのかもしれない。
ルイさんも同じことを思ったのだろう。しかし私とは裏腹にフッと少し笑った。
「君達今日は一段とうるさいね。」
ニコニコ笑っているはずなのに空気はまた凍りついた。さっきとはまるで違う。本気でキレている。
「「も、申し訳…!」」
2人もそれを感じ取ったのか、謝る声さえも震えて最後まで言えていない。ルイさんはそんなのお構いなしに続けた。
「君達は僕が彼女に負けると、そう言いたいのか?」
「そ、そんなことありません。ですが万が一の事を考えて…。」
カナデさんはルイさんが怖すぎたのだろうか、顔を青くして何も言葉を発せずにいる。それにかわってタイトさんが説明をしているが…万が一の可能性を話してしまうなんて、勇気がある。普通はそこは伏せるはずなのに。流石というべきだろうか。だがそんなことルイさんは気にしない。
「万が一にでもあると考えたんだろう?同じことじゃないか。君らは、男が一回り小さい女に負けると思うのか?」
「い、いえ決してそんなことは…。」
「筋力も腕力も男より女が勝っているとでも?」
「…すみませんでした。」
「分かったらさっさと行け。」
「「はい。」」
「ひどいですね。」
「そう?」
2人がいなくなり、さらに静かになった生徒会室。夕日が射し込む中2人っきりで、他の生徒もなかなか残っていない時刻。
「僕は馬鹿にされたんだよ?よっぽどあっちのほうがひどいと思うけどなぁ。それに君も色々言われて何も思わなかったの?」
「私はあなた方と違い、勢力なんて気にしてませんからなんとも。」
「…僕は腹が立った。」
そう言いながら、会長の席から立ち上がり私の元へと歩いてきた。
「いくら僕でもさ、流石に女の子には負けないよ?なのにあの心配よう。」
私の隣まできたルイさんは、バン!と両手で机を叩いた。いきなりでびっくりした私は、その音に肩を震わせ上を見上げた。
「弱い認定されてるんだよね。神狼一家とのことから。」
あ。私は視線を横に流す。どうしよう、心当たりしかない。それを見たルイさんはクスッと笑い、顔をそらした私の顔をルイさんが片手で持ち上げる。
「ね、君はどうして僕のものにならないの?」
「ちょっ…と、離して…!」
私の声などお構い無しに、両手で顔を掴み上げる。あまりに高く持ち上げるため、私は椅子から立ち上がった。顔を近づけ至近距離で見つめられ、焦って彼の手から逃れようとするが、彼の腕はビクともしない。
「僕と婚約することは君にも利益があることだよ?レオン君といったかな。彼と婚約して何の利益がある?」
「利益なんていらない。私はレオンだからいいの。」
「強情だなぁ。」
そう言いながら、すりすりと私の頬を撫でる。その手つきが気持ち悪くて眉をひそめた。
「いい加減放して。」
「フフ。僕じゃ嫌?」
嫌。そうすぐに答えが出たのにそれを口に出すことが出来なかった。この人のことは理解ができない。組の人への当たりはひどいし、やり方も汚い。でも……言えなかった。それよりも聞きたいことがあるから。
「あなたは中々本心で笑わない。」
「え?」
「私が見た中で数回しかない。しかもそれは全て、あなたが何か手に入れたときではない。…あなたは、」
とそう言いかけたとき、生徒会室のドアが開いた。そこにはカナデさんでもタイトさんでもなく…
「うちのクラスの修学旅行のグループの名簿を持ってきましたよー。」
「なんで俺も一緒なんだよ。」
「だって怖いじゃんか。それにこれ渡す期限過ぎて、もう明後日は修学旅行当日だし…。レオンさんが来てくれて安心安し、ん……え!?」
「ん?お前何見て……なっ!?」
そこにはレオンとその友達が立っていた。
「あ…レ、レオン。」
「サクラ…お前なんでここに。それに…お前は!」
最悪だ…よりにもよってこんな時に見られるだなんて。しかしこんな雰囲気の中、ルイさんはパッと私の顔から手を放し、いつも通り笑顔で接した。
「久しぶり~。あ、グループ名簿ね。君達が最後のクラスだったから、ありがとね。じゃサクラちゃん取りかかろうか。明日までにしおりを作っておかないとね。」
「ま、待てっ!サクラどういうことだよ。お前最近教師との用事があるって…。」
「あっれ~?レオン君知らないの?」
やめて、待って。私から…私から言わないといけないのに…!口を開くが声は出ない。彼のあの顔傷付いたを見た瞬間声が…音が出なくなった。怖い…!
「サクラちゃんはね、」
お願い…やめて!
「生徒会副会長になって、会長である僕を支えているんだよ。」
「は…?」
「レオン、これは違くて…ってレオン!」
どうしようか何を言おうか迷っていた時、レオンは私の返事を聞かず勢いよく生徒会室から出ていってしまった。追いかけなければ。どうにかして私からちゃんと説明しなければ。そう思い必死の思いでレオンを追いかけた。
「レオン…レオン!!」
ひたすら名前を呼びながら追いかけていくと、ふいにレオンが立ち止まり、こちらへ早足に戻ってきた。そうするとは思っていなかった私は、まだ心の準備が出来ていなく、ただただ後ろに下がる。
「レオン…?」
下を向き顔に影がかかっているため、どんな表情をしているのか分からない。と、壁際まで追い詰められた私。…な、何?そう思った途端、レオンが右手を上げ、勢いよく私の顔横の壁をドン!と叩いた。…怖い!急なことでビクッと肩を震わせるとレオンははっとしたように我に返り、
「…わり。」
言って去っていった。
それからレオンは私を避け続け、ついには口を聞くことはなく修学旅行の日になってしまった。
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