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26話
「「うおー、京都だー!!」」
「おっし…じゃあまたホテルでなっ!」
「遅刻すんじゃねぇぞ〜。」
「お前もな!」
クラスの皆が嬉しそうに声を上げ、各グループに分かれていった。そう、私達は今修学旅行で京都に来ているのだ。
「サクラちゃん、どこ生きたい?」
ウキウキな気分に目を輝かせているダイスケ君。私よりも彼らのほうが行きたいところがありそう。そう思いふふっと笑いながら、チラッと同じグループであるナオト君を見た。彼は彼で何がブツブツ言いながら、地図と睨めっこをしていた。その目は必死そうにも、ダイスケ君と同じ光を放っていた。
「あると言えばあるんだけど…ダイスケ君とナオト君はどこに行きたい?2人とも前からずっと楽しみにしてたから、私はそっちを優先したいな。」
「俺は、俺は!『八幡の塔』が見れる所に行きたい。あそこは色々散策できるし、京都の街並みといえばココでしょ!…んで?ナオトは?」
「俺は別に決まってねぇな。京都って感じを味わいたいだけだし、その面では『八幡の塔』はいい所かもしんない。サクラさんは?」
「えっと私は…やっぱり『清水寺』かな。秋じゃないから紅葉はしてないけど、京都といえばお寺に行ってみたい。それに京都の市街を一望するのもいいなぁって。」
清水寺は京都を代表する観光名所だ。有名なだけでなく歴史も古く、清水寺から見る景色は絶景だとか。そんなの聞いたら行きたくなるに決まっている。でも…何か遊ぶところがあるわけでもなく、ただ見て回る場所に2人がついてきてくれるとは思えなかった。不良やヤクザが集まったこの学校の人達が、歴史なんかに興味を持つとは到底考えられないからだ。だからあんまり、2人の前で言いたくなかったな…。そう思っていると、
「じゃあそこも行こう。」
「あぁ。」
とすんなり受け入れ、計画を立て始めている2人。え!?とビックリして2人を見つめていると、視線に気づいたダイスケ君が首を傾げた。
「え、何?行きたいんでしょ?」
「そうだけど、2人が楽しめるかどうか…。折角なら3人で楽しめるところに私は行きたいの。無理して付き合わせたくない…。」
とそれを聞き、ダイスケ君は更に首を傾げ唸った。がそれとは反対にナオト君は、あぁなるほど、と声を漏らした。
「確かに俺らは歴史なんかに興味はないけど、見える景色には興味がある。…それにこの3人で行くんだ。どこに行こうが楽しいに決まってる。サクラさんはいちいち気にしすぎだ。」
そこでやっと理解したようにダイスケ君がはっとし、こちらに身を乗り出した。
「気ぃ使ってたのか!そんなんいいのになぁ。大切な友達と遊べるならどこだって楽しいだろ。」
「この馬鹿に気を使うだけ無駄だぞ。こいつは犬とでも思っとけばいいんだ。」
「そうそう…ん?誰が犬だって!?」
仲良しの取っ組み合いが始まって終わるまで、私はそれを止めることなく笑顔で見守った。
「…ありがとう。」
「「おう!」」
ニコッと笑う彼らを見て、久しぶりに心がホッコリとした。いつもはクラスの皆のため、自分の意見は後回しにしていたが…今日くらいは我儘になってもいいのかもしれない。
それから調べてみると、運の良い事に清水寺と八幡の塔までは、徒歩10分と意外に近い事が判明した。そしてどうせ見るなら夕方の絶景がいいというダイスケ君の要望で、先に八幡の塔へ行くことになったのだ。そこまでは電車やバスなどに乗り、3人で話しながら向かった。いつもと違う環境だからか、状況だからか、彼らの意外な一面をたくさん知れる良い機会になった。この時間が続けばいいのに…。しかし、2人の仲良しの空間に生まれた私との間の壁はやはりあって、その疎外感を感じる度に、レオンのことを思い出して仕方なかった。
「着いたー!!」
街行く観光者のほとんどの人が、着物を着て歩いている。写真を撮ったり、お土産を見て回ったり…一人一人の笑顔がまるで宝石のように輝いていて眩しい。古き良き建物に、その雰囲気を大事にしようと、お店の中の人達も着物を着て働いている。
すっごく楽しそう…っ!そう思って見ていると、ふと隣から視線を感じ首を捻った。するとこちらをニヤニヤ見ている2人の姿が。
「…な、なに?」
「いや〜。サクラちゃんの目、キラキラしてるなぁって。」
「着物、着てみたい?」
ずっと見られていたことに段々と恥ずかしくなり、頬が熱くなる。
「い、や、高いからいいかなぁー…。」
目を合わせないよう顔を背けながら答える。何かまだ冷やかしてきそうだと思っていたが、意外とあっさり2人は引いていった。
「たしかに。」「そうだな。」
ふぅ…。ダイスケ君もナオト君も分かりやすい人だなって思ってたけど、私も全然人の事言えないな…。そう心の中で苦笑いをしつつ、やはり楽しみを我慢できないのもあって周りを見渡していると、こちらをじっと凝視している50歳くらいの女の人がいた。
「…に行きたいから俺はこっちが……。」
「いやお前の通りに進んだら時間ないんだから、ここをこうして…。」
ダイスケ君とナオト君がどう回るのか作戦会議をしている中、ずーーっとある一定の視線を感じ、私は中々話に集中できない。
「………あの、何かご用ですか…?」
突き刺さる視線に耐えられなくなり、話しかけると女の人はふふっと口に手を当てて笑い、明るく優しそうな声で答えた。
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