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27話
「あぁ、ごめんなさいね。ルイ様から送って頂いた写真の女の子にそっくりだったもので。」
「ルイさん…?」
まさかここでその名を聞くことになろうとは思いもしなかったため、思わず聞き返してしまった。その名前に聞き覚えのあるダイスケ君とナオト君も、自分達の会話をやめてこちらに歩いてきた。
「なぁなぁおばさん。ルイって月森組のやつのこと?」
「あら知ってるの?じゃあそこお嬢さんはそっくりさんじゃなくて、本物さん?」
「えっと…まずその写真を見せてもらっても?」
女の人はえぇと頷きスマホを手に写真を探し出した。
「この子よ。」
渡されたスマホの画面を見ると、それは確かに私だった。でもどこを向いているのかカメラ目線ではない。…これ絶対隠し撮りよね?
「サクラちゃんだな。」
「あぁサクラさんだな。」
「…私ですね。」
「まぁ!そうなの?会えて嬉しいわ。ルイ様から話は伺ってるもの。ささ、こっちの私のお店へ来て来て。」
「え。あ、あの…!」
そう声を掛けたが、女の人は嬉しそうにニコニコしながら私の腕を引っ張った。ルイ様ってことは、この人も月森組…。そうは分かっているもののこの人は私に害を及ぼすような人じゃないと感じ、引かれるままその場所へ向かった。
「ここよ。」
着いた先は浴衣が沢山飾ってあるお店。虹色のシャボン玉が描かれた浴衣や華やかで大きな花が描かれた着物など、どれも素敵な着物ばかりだった。
「わぁ…!すごい!!」
「ふふ、気に入ってもらえて嬉しいわ〜。あ、ちょっと待っててね。大切なものだから部屋の奥に置いておいたのよねぇ。」
「え?あの何を…。」
女の人はとてもマイペースで、いいからいいからと言いながら部屋の奥へと消えて言ってしまった。あまりにも彼女のペースに流されるあまり、
「何か…すごい人だな。」
とナオト君ばかりか、ダイスケ君まで感嘆している。
言われた通り大人しく待っていると、暫くして彼女がひょこっと顔を出した。ニコニコしながらその手に抱えているものは…
「着物…ですか?」
「そうよ〜。ルイ様がね、『僕の大事な人でもあり桜蝶一家の長でもあるサクラちゃんが修学旅行に行くから、もしこの写真の子を見かけたら丁重にもてなすように。』って仰ったの。だから私すっごく楽しみにしててねぇ…ふふっ。だからあなたに似合う着物をデザインしたの。」
「ルイさんがそんな事を言ったんですか!?」
まだ桜蝶一家を狙っているのかという諦めに似た
気持ちと、私のためにそこまでしてくれることに少し照れるような、複雑な感情が混ざり合う。素直に喜んでいいものか…。そう頭を悩ます私の前で、女の人はまた優しい笑顔を浮かべた。
「安心して。これは私が勝手にしたことで、ルイ様はただ丁重って仰っただけだから。」
「でも…」
すると女の人は私に顔を引き寄せて、2人に聞こえないよう耳打ちをして言った。
「本家で何があったかは知ってるわ。あの後、正気に戻ったルイ様は、あなたが怪我をしたことにショックを受けたみたい。落ち込んでいらっしゃったようよ。」
あのルイさんが?いつもお気楽で笑顔で、人の嫌がることを自然と行うあのルイさんが?色々ツッコミたい所が多すぎるその言葉に、口を挟もうとした時、
「多分ね、罪滅ぼしなの。」
「え?罪滅ぼし??」
「そう。怪我をする場を作って、一時的だけど自由を奪って、部下の後処理もさせて…。その罪滅ぼしプラス反省の意だと思う。だから…ね?受け取ってもらえないかしら?」
そう申し訳なさそうな笑みを向ける女の人に、私は『いいえ』と答えることなんて出来なかった。ただコクンと頷いただけ。
それを見た女の人は嬉しそうに私を見つめ、そして次の瞬間…
「じゃあ、コッチへ来てちょうだい?着物の着付けをしなくちゃ!そこの紳士さんらは、この廊下を右に曲がった所へ行ってね。そこで男性用の着物の着付けをやってるから。…あ、お代は結構よ。楽しんでもらえたら十分だからね!じゃ、また後で会いましょ〜。」
どこまでもマイペースなこの人に、私を含め3人が呆気に取られる。そして、もう慣れたかのように笑って見せた。
「「はいっ!」」
「じゃんじゃじゃーん!」
「うわぁ…!サクラちゃんすごく可愛いよ、似合ってる!」
「流石着物専門店。サクラさんの特徴を掴んで色も柄も全て合ってるな。」
「あ、ありがとう。2人もすごく素敵だよ。」
2人の(主にダイスケ君の)褒めラッシュに、少し恥ずかしくなり頬が赤くなる。
そんな2人の着物は、ダイスケ君は太い黒の帯に灰色の袴で、ナオト君は細い黒の帯に深緑色の袴を着ていて、高校生から急に大人びた印象を受ける。
そして私は、群青色の布地の上に金・銀のラメが入った桜と蝶が沢山描かれたもの。まるで夜の中、蝶が桜道を舞っているかのよう。お団子に纏められた長い髪は、"金色の月"を基調としたかんざしで形を留めている。
「やっぱり私の見立ては間違っていなかったわね。よく似合ってるわよ、サクラちゃん。」
「…っ!本当に色々ありがとうございました。」
「こちらこそ、ルイ様が色々ありがとうね。…それじゃあ名残惜しいけど、修学旅行楽しんで!」
「「はーい!」」
「それとサクラちゃん。…着付けで私が言ったことは事実だから、帰ったらルイ様と向き合ってあげてもらえるかしら?」
「…はい、勿論です。私もそのつもりでしたから。」
そうして着物専門店を出た私達は、言葉通り本当に京都の街を思い切り楽しんだ。お土産屋はもちろん、アクセサリーやガラス細工、抹茶にわらび餅など、とにかく沢山のお店に足を運ばせた。まぁ、主にダイスケ君に振り回されまくったけれど、何一つ疎外感など感じずに、3人で沢山笑って楽しめた。そんな夢のような時間の中、ついに私の大本命。『清水寺』へ向かう時間が来た。
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