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28話
清水寺の開創は778年。つまり今から約1200年前である。大きな慈悲を象徴する観音さまの霊場として、古くから庶民に開かれ幅広い層から親しまれてきた。1994年にはユネスコ世界文化遺産「古都京都の文化財」のひとつとして登録された。
「…だって。」
清水寺へ向かう途中、折角だから少し調べてみようといい話になり、スマホで検索をかけながら私達は歩いていた。
「歴史も興味を持つと面白いもんだな。」
とナオト君がダイスケ君のスマホを覗き込む。ナオト君が歴史に興味を持つなんて意外だと思いつつ、似合うなと感じる。今の姿に分厚い本を片手に持っている姿を想像すると大昔の学生のように見えてしまい自然と笑みをこぼれる。すると…ドン!
「きゃっ。ご、ごめんなさい。」
夢中になりすぎて周りへの注意を怠り、人と肩がぶつかってしまった。随分派手にぶつかったと、自分の肩を押さえながら見上げると、ダイスケ君よりも拳1つ分くらい背の高い、金髪の男の人とニヤニヤして見つめる4人がいた。金髪も同じようにニヤッと笑ったかと思うと、
「うーわ、ごめんねぇ〜?痛かったよね、ビョウイン行こっかー。俺たち良いビョウイン知ってるからさぁ。」
「あーあ、かわいそ。」
「お兄さん達と、個室のある良いビョーイン行こ行こ。」
そう言われ、急に腕を掴まれ引っ張られる。振りほどこうとするも、相手は血管が浮き出るほど強く固く掴んでいて、逃げられなかった。
「ちょ…離してっ!」
「んー。あ、いったぁ!さっきぶつかったとこ痣になってるかもー。やっぱビョウイン行かなきゃねぇ。ついてきてよ?」
こんな力で掴んでおいて、よく言う…!掴まれていないもう一方の手で鳩尾(みぞおち)を殴ろうかと考えていたその時、
「…おい、やめろよ。」
と、私の腕を掴んでいる方の金髪の腕をダイスケ君が鷲掴みにした。
「あ?何だテメ…っい!?」
ギリッと力を加えたダイスケ君に対し、それに耐えられなくなった金髪はばっと腕を引き剥がした。それと同時に、ダイスケ君とナオト君は私を自分の背に隠し、彼らを睨みつけた。
「おーおー、女の子に対して随分と強引なんじゃないか?」
「こんのガキ…。おい!まずコイツらをやってしまえ!!」
その声に合わせ、金髪の背後から4人の男が飛び出す。しかし2人はそれに怯むことなく、自分達から突っ込んでいった。
「そうこなくっちゃなぁ、ナオト!」
「あぁ、少々刺激が足りないと思っていたところだっ!」
そこで私は、普段優しい彼らもちゃんとあの学校の一員であったことを思い出した。皆ヤクザ出身であることを。そして相手はただのチンピラであることを…。
「ぐはっ!」
「く、そ…!」
相手に攻撃させる隙も与えず、次々と倒していく2人。息もピッタリで、何かダンスを踊っているようにも見えた。ずっと一緒にいたらこんなにも仲良くなれるものなのだろうか。それとも彼らだったからなのだろうか。
と、そうしている間に私はあることに気づいてしまった。…あれ、金髪がいない!?2人の戦い方を見つめていてすっかり忘れていたが、リーダーと思わしき金髪の男が消えていた。急いで左右を見渡していたその時、
「大人しくしてろ。」
と背後から喉元にナイフを突きつけられた。
「卑怯ね。」
気を抜いた一瞬の内に、いつの間にか背後を取られていたようだ。それにしても拳で戦っている学生に対して、ナイフだなんて…。そう考えると彼らの卑怯さにフツフツと怒りが込み上げてくる。
「うるせーな。人質さえ取れりゃ、こっちのもんだ。…おい!てめぇら、コイツがどうなってもいいのか?」
「え…サクラちゃん!?」
2人はこちらを振り返り、ぐっと顔をしかめた。手が出せない。それを理解した途端、金髪の仲間が反撃と言わんばかりに2人に手を上げた。
「「ぐっ…!!」」
「2人共!!」
2人に駆け寄ろうと、彼の腕の中から逃げ出そうとするが、
「動くなっつってんだろ!ふざけたことしてんじゃねーぞ!!」
と更に強く押さえつけられ、ナイフに力がこもられた。タラっと生暖かいものが首から流れ、ヒリヒリとした痛みを感じる。何とかしてでもこのナイフをどけなければ…そうすれば私だって動けるのに。そう思って金髪の人を睨もうと顔を上げたら、彼の背後に"ある人"が。それを見て私は笑みがこぼれた。
「ふっ。あなた、ここまでのようよ?」
「はぁ?何言って…ってな!?何だお前!」
金髪の背後にいた"ある人"は彼の手からナイフを引ったくり、遠くに投げた。
「サクラっ!」
「分かってる!」
着物は動きづらい。だけどね、この着物なトクベツ仕様になってるの。
『ココは治安が悪いから、万が一動けるように、布の横に切れ目を入れとくわね。上の布で隠れるから心配はいらないわ。…もし困ったら男の人のアソコを思い切り蹴っちゃいなさい。そしたら動けなくなるわよ、ふふ。』
ありがとう。着物屋さん。あの時はそんな場面ないと思って軽く流していたけれど…まさか本当にそれを行う時がくるなんて。
「これで病院に行けるわねっ!」
「…ぎゃあああ!!」
思い切り下半身を蹴り、金髪が痛みで叫びながら体勢を崩した時、
「よくやったサクラ!」
「後はまかせたよ、レオン!」
そしてレオンはそのまま相手を背負い投げ、コンクリートの地面に叩きつけた。
「ぐぇっ。」
金髪は蛙が車に引かれたかのような声を出し、その衝撃に耐えられずに気絶した。
「「ひ、ひぇー!」」
他の4人はリーダーがやられたことに怯え、背中を見せて立ち去ろうとする。
「サクラはどーしたい?」
「もちろん、受けた恩と売られた喧嘩はお礼をしなくちゃ…ね?」
「流石だな。」
そうして、ものの数分で、ガタイの良い大人全員が高校生2人に敗れ、地面に倒れ失神することになった。
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