189人が本棚に入れています
本棚に追加
29話
レオンはパンパンと手を払い、こちらへ向かってくる。そうしてやっと私は、今彼と気まずい状況であったのを思い出した。
「あ…レ、レオン。」
避けられていたのはこっちだけど、何となく目を合わせずらく、目線を下げる。
「……はぁ。お前は何でそう、色んなことに巻き込まれるんだ?」
「そ、そんなの私が聞きたいわよ!」
少しムキになり、顔を上げて答えるとレオンはスッと私の首元に手を伸ばした。
「んっ…。」
「痛いか?」
「……ちょっと。」
するとレオンは急に手を伸ばし、私を抱きしめた。いきなりの事で全然状況の呑み込めない私は、ただひたすら頭にハテナが浮かんでいる。
「レ、オン?…怒ってる?」
私がそう言うとレオンは、はぁぁと大きく深いため息をついた。
「怒ってる。」
「え!?ご、ごめんなさい…。」
「それと心配もしてる。」
「ごめんなさ…え?」
「お前は、俺がいくら頼れと言っても頼ってこない。今回だってそうだ。ギリギリまで俺を呼ぶなんてしなかっただろ。そのせいで怪我までして…。」
「これ位の怪我なんて、何でもないわ。」
「俺が嫌なんだ!」
抱きしめる力を緩め、こちらを見るレオンの目はひたすら真っ直ぐで真剣そのものだった。
「お前は俺の婚約者だ。お前の身体もお前だけのじゃなく俺のものでもあるんだならな。」
その言葉にトクンと胸が高鳴った。何も深い意味などなくても、こんなにも堂々と言うレオンに対し、逆にこちらが恥ずかしくなる。しかしそんな私を知らんぷりし、レオンは私の肩に自分の頭をうずくませた。
「ほんと…っざけんな。なんで俺をおいていくんだ。なんでルイの…月森組の奴のとこに行くんだよ。なんでアイツらは俺の大事なモンを持ってくんだ…。」
こんな弱音を吐く彼の姿を見るのは初めてで私は一瞬思考が停止した。私を責めるというよりは、1人嘆いているように聞こえ、そこでようやく私は、はっとした。
そうか…レオンは怒ってはなかったんだ。私が秘密にしていたから怒ってたと思っていたけど、そうじゃない。私が月森組と関わっていたことが耐えられなかったんだ。
「噂で生徒会が誰かを新しく入れて仕事をし始め、学校が過ごしやすくなったって聞いてた。生徒会長のアイツがやっと仕事をするようになったのかって呆れてたんだ。それと同時に奴をやる気にさせた新メンバーが気になってた。アイツはサクラにしか興味を示さない奴だから…。言っちゃ悪いが、もしかしてと思ったことはあったんだ。最近一緒に帰る時間もなくなって、お前はいつも忙しそうにしてたから…でもサクラは奴の事を嫌っていたから大丈夫だって自分に言い聞かせてた。…だから本当のことを知った時、嫉妬や憎しみでお前をめちゃくちゃにしそうだって、ずっと…。」
それで私を避けていたんだ…。自分の怒り任せではなく、私の為を思って距離を置いていてくれたこの人がとても愛おしく感じる。
月森組から何もかもを奪われてきた神狼一家。でもレオンは月森組をバカにするだけで、傷ついた様子は見せなかったため、何とも思っていないのだと思っていたけれど、そうじゃないんだ。ちゃんと傷ついていた。こんなにもなるまでに。私とは違って生まれてからこちらの世界にいた彼にとって、敵に弱さを見せまいとする姿は当たり前なのかもしれない。でも心では傷ついていて、そしてまた奪われるんじゃないかって、怖かったんだ…。私は彼を強く、でも優しく抱きしめた。
「ごめんね、レオン。私全然気づけてなかった。…大丈夫、私レオンのそばにずっといるよ?」
「…ホントか?」
「うん。絶対。」
「……それなら、生徒会やめろ。」
「それは無理。」
「んだよ、俺今傷ついてんだぞ。」
「それとこれとは別でしょ!生徒会は生徒の皆の為にやってるんだから。」
「冷たい女だな。」
「それはそれはありがとう。」
そう言ってふとレオンと目が合う。長い間お互いを見つめ、そして…
「「……ぷっ!」」
2人で盛大に笑いだした。いつも通りに戻れたような、でももっと親しくなれたような気がする。それに…レオンには言えないけど、彼の弱った姿を見られたのは少し嬉しかった。これからもこの人と毎日を楽しく過ごしていきたい…と思っていると、横から知っている声が聞こえた。
「えーーっと…。」
「おいダイスケ邪魔するな。ここは今からチューするシーンだぞ。」
「はっ!そうなのか、ごめん。気にしないで!」
ナオト君に叩かれるダイスケ君を見て、私たちは2人がいることをすっかり忘れていたと冷静になる。こんな場面、以前にもあったような…。そう思いチラリとレオンを見やると、同じことを思っていたのかレオンもこちらを見ていた。しかし私と目が合った瞬間、顔を真っ赤にしながら逸らした。
「ほらお前が邪魔するから。」
「うぅごめん…。」
私は顔の火照りが今だ取れないまま、少し気まずい思いで2人に近寄った。
「2人共ごめんなさい。私のせいで怪我させてしまって。…私があの時気を抜いていなければ、あんな事にはならなかったのに。」
そこまで言って、自分の不甲斐なさに涙が出てくる。でも痛くて泣きたいのは彼らの方だ。溢れる涙を零さまいと唇を噛んで必死に我慢する。
「「…なんで?」」
「え?」
「なんでサクラちゃんが謝るの?」
「だって私のせいで怪我を…。」
「そんなの今更気にすることないだろ。俺らはヤクザ学校出身だぞ。こんなのいつもの事じゃないか。」
「なんならいつもより怪我してない方だな!」
「確かにな。」
そう言って笑い合う2人に私は救われたような気になり、ふと力を弛めて笑った。その瞬間目に限界まで溜めていた涙が一筋、ポロリと零れる。
「「…!」」
「あ、ごめんね!何か安心して…。」
2人のいつも通りを見れて、レオンと仲直りができて、全てに安心して心の底から笑うことができた。それに折角の修学旅行。涙なんて流さず、笑顔で楽しい思い出を作りたい。私はぐいっと涙を拭き、皆に笑顔で向き合った。
「ありがとう!」
「なぁ、ダイスケ。」
「ん?」
あの後レオンがどこに行くのかサクラに聞き、清水寺と答えると彼もついて行くと言ったため、今4人で清水寺に向かっていた。ナオト・ダイスケの前にサクラ・レオンが歩いており、楽しそうに話している。
「さっきのサクラさん…可愛かったな。」
「それ俺も思った。可愛いし強いし…ちょっと抜けてるけど。」
「でもあれだな。隣にめちゃくちゃ怖い狼がいて手も足も出ない。」
「あ〜レオン君か。…独占欲強そうだよな。」
「あぁ。」
そう言ってサクラをじっと見つめるナオトを、ダイスケは横目でチラリと見やった。
「サクラちゃん、狙うならやめといた方がいいと思うよ。」
「…はっ狙うかよ。あんなにもお似合いじゃないか。」
そういうナオトの視線の先には、幸せそうに笑って話すサクラと、それを愛おしそうに見つめる学校一の暴力狼と言われたレオンの姿があった。
最初のコメントを投稿しよう!