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30話
「はぁ!?アイツがお前を諦めるって言っただぁ!?」
「う、うん。」
あの後私達は今むで一緒にいなかった分を取り戻すかのように、永遠にお互いあった物事を語り尽くした。その時、レオンから着物について指摘され、着付けの人から言われたことを思い出した。
「着付けの女の人が月森組の人でね、ルイさんのことを色々教えてくれたの。こうやって京都にいる組の人に声掛けしたり、手厚く用意させたりしているのは、今までの謝罪の意だって。」
そう言いながら、ルイさんのことを話す彼女の顔・声をふと思い出した。
『ルイ様はね、本当はすごく素直で優しい方なのよ。小さい頃は私もよく遊びに参加していたものです。でもある時…そうね、月森組の方針を父親から教えてもらった時だったかしら。急に今のように変わってしまわれたのよ。…だからね、』
「心の中の本当の姿であるルイさんは、すごく良い人だから信じて欲しい。…そう言っていたの。」
「…信じられんな。謝罪とかいって、適当にしてるんじゃねぇの?」
「私も初めはそう思った。でも生徒会に入って気づいたの。彼の謝罪が本気のものだって。」
そう…多分生徒会に入っていなければ、気づかなかった事。いや、入っていても気づかない可能性が高い事。それは…
「修学旅行費用が去年と同じなの。」
「はぁ?そりゃ普通だろ。」
呆れたように答えるレオンの言葉に、私はきっぱりと首を横に振った。
「確かにレオンみたいに当たり前だとスルーする人もいるけれど、それは去年と同じことをしていることが前提でしょう?」
「…まさか、去年と何か違うのか?」
「ピンポーン。」
「だがスケジュールが違えば誰だって気づくだろ。」
「スケジュールを変えたんじゃないよ。それをしたら教師にバレる可能性大だもの。そうじゃなくて、もっと確実な方法。…レオン、私達が泊まるホテルについて調べたことある?」
私がそう言うとレオンは、何言ってんだコイツと言わんばかりに顔をしかめた。
「俺は調べてねぇけど、ホテルぐらい誰かが気になって調べるだろ。ホテルが去年と違うなんて生徒だけじゃなく教師も気づいて、それこそバレるだろ。」
「調べるのは名前だけでしょ?じゃあ…住所は?」
「はぁ…そんなんするわけないだろ。同じ名前のホテルがある訳じゃ、ない…え?」
有り得ないだろと面食らったような顔をしてレオンは私を見たが、フフっと笑う私を見て全てを理解したらしかった。
「…本当に名前が同じホテルをアイツは用意したのか?」
「大正解。それも最高級のホテルをね。気になって調べてみたら、案の定月森組が絡んでいたわ。元々あったホテルを買い、名前を変えていた。」
「…いやもしそうなら、そこに泊まる俺ら全員の費用は…。」
「うん、ルイさんが全部負担しているんだと思う。」
と言うと、レオンははぁと大きなため息をついて肩を下ろした。
「何でもありかよ、月森組はよぉ。」
「フフッ。まぁこんな事もあったから私は少し、ルイさんを信じることにした。レオンは?」
「……少しだけな。」
不服そうにそう答えるレオンに私は軽く微笑んだ。こっちは本当に、素直じゃないんだから。
「今回だけ…今だけで、俺はアイツが嫌いだ…。」
ブツブツそう呟くレオン。そりゃ彼にとってはすぐに信用出来ない相手だろうし、したくも無いかもしれない。私だって信用しただけで、警戒が解けた訳ではないから。でも…。私は空を見上げ、ここにはいないルイさんの顔を思い浮かべた。
…私たちはルイさんの裏を知らずに表だけを見て、彼はこういう人だと判断しすぎたのかもしれない。
「「うわぁ…!!」」
階段を上り歴史展示物を見た後、外に出るとかの有名な清水寺からの景色が私達を待ち受けていた。日は暮れ、オレンジ色に包まれた中、人がまばらに歩いている。下を見ると緑の葉が影を為したその先に、強くも弱くもない淡い光に輝く京都の街並みが一望出来る。
「なぁなぁ、アレ俺らが行ったトコじゃね?」
「そうかもな。」
「あ!あっちも見てみたい…!早く来いよナオトっ!」
「ちょ、おい引っ張るなって!」
今日1日中、ダイスケ君に振り回されているナオト君を見て、私たちはクスリと笑い合う。助けを求めるようにこちらに手を伸ばすナオト君を、私達はにこやかに見送った。こうなったらダイスケ君は止まらない。頑張れ、ナオト君!
「今日、色々あったな。」
「うん…でも楽しかった。」
「あぁ、そうだな。」
手すりの上に腕を置き、2人とも視線を交わすことなく変わらない景色を見つめた。
「レオンの意外な姿も見られたしね。」
「おい、やめろよ。俺にとっては軽く黒歴史だからな。」
「ごめんごめ…クシュンっ!」
夕日が落ち始め、風が肌寒く感じるような気がする。クシャミをした私を気遣うような目でレオンは屈んで私を覗き込んだ。
「大丈夫か?寒いのか?」
「うん、ちょっと…。でもまだ大丈夫!」
そう言って笑って見せると、レオンは優しい笑顔でバカと呟き、私の腕を引っ張った。
「…っ!」
気づいた頃には、私はレオンの大きく堅い胸に包まれていた。
「あ、あの…レオン?」
するとすぐ上、髪に息がかかるほど近くでレオンの声がした。
「頼れって言ったばっかりだろ。」
「あ、ごめん…。」
本当に大丈夫なのに…。でも温かい。そう思いながらレオンの優しさに胸を打たれる。
「身体冷ましちゃ、マズイだろ。大人しく温められてろ。」
「…うん。ありがと。」
清水寺で、抱き締め合っている2人。しかし周りはカップルだらけで、いたって目立つことはなかった。…が、心臓がドクドクと大きな音を立てて脈打つ。呼吸もしずらく心苦しい。けれど離れたくない。色々な思いが渦巻き、今考えられるのは、この鼓動がレオンに伝わっていないかどうかだけ。自分だけこんなにドキドキしていて、少し悔しい。そう思っていると、私とは少し違う鼓動が聞こえた。…誰かなんてすぐに分かる。なんだ、レオンもドキドキしてくれていたのか。チラッと上を見やると、ちょうど私を見下ろしていたレオンと目が合う。
レオンの瞳…何て綺麗なんだろう。街の光が反射して、瞳がキラキラとしている。そう思って見つめていると、その綺麗な瞳の光がだんだんと消え、その代わりに私がだんだんと大きく彼の瞳に写っていた。
そしてそれがいっぱいいっぱいになる時、私はそっと目を閉じた。唇に意外と柔らかい彼の唇が重なる。途端、それ意外考えられなくなって、頭が真っ白になった。ふわふわと足元から浮かんでいるような感覚がする…。
とそこで、後ろからパサッと何かが落ちる音がした。と同時に首元に当たっていた風が遮断された。何だろう?唇を離した時に、ふと振り返ってみると、
「あれ、髪が…。」
簪(かんざし)で止め、まとめていた髪が綺麗に全て下ろされていた。なんでだろう…そう思っていると、レオンの手には金色に輝く簪が。
「…。」
私の視線に気づいたレオンは、横にプイッと向き赤い顔で言った。
「…俺以外からもらったもんを付けるな。」
何て子供みたいなことを言う人なんだろう。そう思いながら、でもこの人が私の愛しい人なのだと感じた。
「…嫉妬した?」
ニヤニヤとしながら尋ねると、レオンはさらに顔を赤くした。が、すぐに不満そうに眉をしかめ次は勢いよく唇を奪うようにキスをしてきた。
「んっ…!!」
余りに唐突で、強引なキスに顔を真っ赤にしていると、それを見たレオンは満足そうに笑った。
「真っ赤。」
「つっ…!!」
とそこでダイスケ君とナオト君が遠くから手を振りやがらこちらへ来た。
「2人ともー!ってあれ?サクラちゃん顔赤くない?」
「ゆ、夕日のせいだよ…!」
そうなのか、と納得するダイスケ君に対し、何かを察したナオト君はニヤニヤとレオンを見た。
「ほぉ…夕日でそんなに赤くねぇ?」
「……なんだよ。」
「なんにも〜?」
その後ホテルに向かう際、レオンはずっとナオト君にいじられたとか何とか。
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