32話

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32話

「〜ということで皆さんに守ってもらいたいことは、暴力沙汰を起こさないとと、物を壊さないことの2つです。…って聞いていますか?」 USN(ユニバーサル・スタジオ・ニッポン)の門の前。ゴリゴリの体育会系色黒教師が大声で最低限のルールを説明している中、パークから流れる音楽を聞き、生徒はそれどころじゃないように浮ついている。足を広げてしゃがみ込み、話をしている生徒達に私はため息をつきながらも温かい目を向けた。 そりゃ遊園地を目の前にしてじっとしてろって方が無理だものね。そう思い、注意をしない時点で私もかなり浮ついているのを自覚する。"早く遊びたい"という皆の気持ちが、時間と比例し高まる。早く遊びたい…。そのために今必要なことは…そう。先生の話をさっさと終わらせること!!私はスクッと立ち上がった。 「先生。」 「はい?」 「何度も同じことを仰らなくても、皆きっと分かってます。…それより早く解放させた方が良いと思いますよ?我慢させられ続け、ストレスのあまり…」 私の言いたいことが分かった皆が、ピタッと話すのをやめ、ニコォ…っと先生の方を向いた。彼らの"気"を感じた私は、クスッと笑い人差し指を立てて唇に寄せた。 「暴れてしまうかもしれませんよ?」 「ったく、恐ろしすぎんだろ。」 先生から解放を述べられた生徒達は、少し足速にパークの中へ散っていった。それに対しレオンと私はゆっくりと歩き、いつもとは違う風景を楽しんでいた。 「ふふっ。私もちょっとテンション上がってたみたい。」 「…テンション上がってたくらいで一教師を半泣きにさせたのか、お前は。」 「えー。私は忠告しただけよ?存在感増し増しにしていたのは皆なのに。」 「おい、存在感なんて可愛いもんじゃなかったぞ。あれは完全に殺気だ。…それにお前もノリノリで乗っかっていったろ。同罪。」 確かにやりすぎたかなーって思ったけど…だって早く遊びたかったんだもの!…なーんて、子供っぽくて口が裂けても言えないな。 先生ごめんなさい、許してください。レオンのことを考えるとワガママになってしまうの。早く2人で遊びたかった。ただそれだけだったのよ。 「だって話が長いから…。」 「確かにな。まぁ尻が痛くなる前に終わらせてくれた所は感謝してる。」 何それーと笑い出す2人。やはり皆だけでなく私やレオンもテンションがいつもより上がっていると感じた。 「…やっぱりサクラはすげぇよ。」 そう呟いた彼の声は、周囲の音楽と笑い声でかき消され、私には届かなかった。 「はぁ…はぁ…やっぱ、お前はスゲーよ。」 「ね、レオン。もう1回乗ろうよ!」 ワクワク、ニコニコ。私はもう3回は乗ったであろうジェットコースターを指さした。 「何回乗る気だよ!他行くぞ他!」 「えー。」 1日中乗るつもりか!とレオンにツッコまれ、腕を引っ張られる。ジェットコースターに乗れなかったことに落胆していると、 「…俺はスリルもいいが、お前と一緒にいるって実感が欲しいんだよ。アレじゃレールを見てお前を見れないだろ。」 そう振り向かずに言うレオンに、トクンと胸が高鳴る。それは卑怯だよ…そんなの言われたら、ついて行かない訳が無い。耳が熱く赤く染まる中、私は彼の背中を見つめた。たくましい背中、鍛えられた筋肉。私より大きくて太い腕をしているのに、私の手首を掴む力はとても弱く、まるでガラス細工を扱っているかのよう。何かむず痒くて、恥ずかしくて…でも、少し嬉しくて。私はタタッと彼の隣に並び、その手を離して指を絡めた。 「…っ!?」 一瞬ビックリしたようにレオンはこっちを見たが、目を合わせられない私を見てそっぽを向き、その手にキュッと力を込めた。 「…わり、手洗いに行ってくるわ。」 「うん、分かった。私はさっき行ったからここで待ってるね。いってらっしゃい。」 「ん。」 時刻は18時過ぎ。もう日も暮れ、薄暗くなり始めた頃。パーク内を一周し、お互いが乗りたかったアトラクションも乗れ、今日一日とても楽しく充実した時間を過ごすことができた。 …が、私は1人になって今日1日の行動の反省をしていた。 恥ずかしい…。何してるの私。何してるの私!!考えていることもそうだけど、急に恋人繋ぎをしようなんて…。自分の行動の大胆さに驚きつつも恨めしい気持ちに駆られる。だって急にレオンがカッコよくなって、キラキラしてるから…。昨日からか、いつも以上に彼がカッコよく見え、もっと一緒にいたいという思いが募る。一緒にいたい、近づきたい、触れていたい。彼の近くにいるとドキドキで倒れてしまいそうなのに、妙に安心して穏やかな気持ちになる。色々な感情に戸惑う中、そういえば人に対してこんなにも感情を抱いたのは初めてだと気付かされた。 「待たせたな…ってどうかしたのか?」 いつの間にか俯いていた私はその声にハッとし我に返る。私を気にかける優しい声音に、顔を上げニッコリと笑いかけた。 「なんでもないよ、早く行こっ!」 そうして気づき気づかれ、新しい思いが生まれ増築するなど、色々あった私達の修学旅行は幕を閉じることとなった。 そして、それと同時に私の最後の戦いが幕を開けようとしていた。
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