34話

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34話

ズンズンズンと遠慮なしに近づいてくる。 「サークーラー?」 「ご、ごめんなさい!レオンが来たらキレて、まともに話が出来なくなると思ったの。で、でも忘れてた訳じゃなくて…いやさっきまで忘れてたんだけど…!!」 「忘れてたのかよ。」 慌てすぎて、言わなくてもいい事まで言ってしまい、レオンに少し強く額を小突かれる。 「あいたっ!」 私は両手で小突かれたところを抑え、レオンを見つめる。あれ、そういえば扉壊れてない…。どうやって入ってきたのだろう?私、内から鍵を閉めてたよね? 額に手を当てたまま考えていると、私が何を考えているのか分かったのか、レオンが説明してくれた。 「…蹴り破っても良かったんだが、サクラがその破片で傷つくかもしれねーだろ。だから職員室で鍵借りてきた。」 うっ…!サラッと言うレオンをカッコイイと思う気持ちと、そんな人を完全に忘れていた罪悪感が押し寄せる。そんな中、レオンはルイさんに今にも飛びかかりそうな雰囲気で見つめていた。 「お前…サクラに何もしてないだろうな?」 「さぁ〜どうだろうねぇ。」 「…くっそ。お前はやっぱり信用できねぇよ。なぁ、サクラ…って何持ってんだ?」 ふとこちらに向けたレオンの視線が、私の手元へと移る。 「あ、えっと、これはルイさんがくれた……紙。」 「いや、内容だよ。」 「え、えぇっと…。」 この時、私はふとこの内容について、レオンは知っているのかと考えた。生まれてこの方ずっとヤクザと関わってきたレオン。この規定について知っていてもおかしくない。私が正式な長でないこと…そして、私が正式なレオンの婚約者でないこと。 「………。」 「…サクラ。」 無言のまま、目だけをキョロキョロと動かす私を見て、レオンはスッとしゃがんで私と同じ視線の高さになった。 「頼れって言ったろ?俺は何があってもお前の味方だ。安心して話してくれないか?」 真剣なその眼差しの中には心配の色が浮かんでいる。 「あ、のね…。」 「まぁまぁ、そんな急かさなくてもいいんじゃない?」 「お前は引っ込んでろよ。」 「えー、やだよ。だって俺、レオン君に用があるんだもん。」 「あ?俺にはねぇよ。」 「俺はある。」 ゴゴゴッ…と地響きが聞こえてきそうな2人の雰囲気に苦笑いを浮かべる私。素直じゃなかったり、変なところは素直だったり。この2人は似たもの同士で仲良くなれるかなって思ってたんだけど…。チラリと2人の顔を見やる。笑顔のルイさんとキレてるレオン。…うん!難しそう!! そう心の中で開き直っていると、ルイさんが急にレオンの肩に腕を回した。 「サクラちゃん、席を外してもらてるかな?男同士の話がしたいんだ。」 「あ、はい。では、失礼しますね。…レオン、嫌いだからって理由もなく殴っちゃダメだからね。」 「お、おい、サクラ…。」 俺も行くと言いたげな彼に私はニコリと笑い、そそくさと生徒会室を後にした。ごめんね、レオン。でもあなたも1度は彼と話をした方がいいと思ったの。 そうして私はそのまま足速に家へ向かった。ルイさんが言っていた桜蝶一家内部の跡継ぎの座を狙おうと企む輩を探すために。…そして承認を得るための準備に。 あの人が何を言ってくるかなんて予想がついている。だけど、昔とは違う今の私の全力で、あの人と闘いに行くんだ…!結果がどうなろうと、後悔しないように全力で。 * * * * * * * * * * * * * * * * 「…んだよ気持ちわりぃ。」 サクラが部屋を出て足音が聞こえなくなった頃、最初にレオンが口を開いた。ルイは大人しく回していた腕を解き、一定の距離をとる。 「僕はね、サクラちゃんが好きだ。」 「…知ってる。」 「家とは関係なく彼女が好きだ。」 「…。」 レオンからは返事はない。それでもルイは気にせずに話し続けた。 「彼女がすることなら何でも応援するし、助けを求められたら全力で助けることができる。」 「…そんなん、俺だって…。」 弱々しくそう言うレオンにイラッとしたのか、ルイはすぐさま反論した。 「嘘をつけ。君、今何か悩んでいることがあるだろう?そんな状態でサクラちゃんを守れるとは思えない。」 冷たい表情でそう言い放つルイに、レオンはカッとして噛み付くように吠えた。 「うるせーよっ!そんなん言われなくても分かってんだ…!」 「君が彼女を守れないなら俺は遠慮しないよ?彼女を自分のモノにしたい気持ちは消えてないからね。」 「うるせぇ…じゃあどうしろってんだよ。アイツは軽々と俺を超えてく。これ以上…これ以上遠くに行って欲しくねぇんだよ!」 ゴッ!と鈍い音が響く。レオンがそこまで言ったその時、ルイはいきなり彼を殴ったのだ。そしてそのまま胸ぐらを掴んで怒鳴った。 「ふざけるな!お前はあの子の1番近くにいたじゃないか!何が遠いんだよ…お前より彼女と近い関係の奴なんて1人もいなかったじゃないか。甘ったれるな!」 声を荒らげるようなタイプではないルイのその姿に、レオンは殴られたことよりも驚いて、そちらに目を見張った。彼のその瞳には、怒りと悲しみが入れ混じっている。 「お、お前…。」 「超えられるのが寂しいなら、超えられないよう努力してみろよ!お前が…お前だけが、彼女の想いを寄せる唯一の人じゃないか…。努力しても無理な奴だっているんだぞ。」 パッと手を離し、フラフラと後ろに下がるルイ。腰に机の端が当たり、もたれかかるようにして、額に掌を押し付ける。 「……くそが。」 そう言ったっきり何も話さなくなったルイを見て、レオンは恐る恐る口を開いた。 「お前、そんなにサクラのこと…。」 「そんなアホみたいな事で悩んで…俺が何のためにサクラちゃんを生徒会に入れたんだと思ってるんだ。」 独り言のようにボソッと呟くルイ。それに対し、無視されてイラついたのか、その言葉にムッとしたのかレオンはグッと首を傾けた。 「ただ近くに置きたかっただけじゃないのか?」 それを聞いたルイはまるでバカにするように深く大きなため息をついた。笑うならまだしも、心の底から呆れたと言わんばかりのため息に、レオンは更にムッとしたように眉を寄せた。 「んだよ。」 「…確かに、そういう思いもなかったと言えば嘘になる。」 「ほらな!言った通りじゃ…」 「でも、一番の理由はそうじゃない。俺はお前に…」 そこでルイはしっかりとレオンの目を見て、キッパリと言い放った。 「力がないと大切なものは簡単に奪われてしまうってことを、身をもって分からせたかった。」 「…。」 ルイの言葉をレオンは真剣な顔つきで受け止めた。そして無言で彼に近寄り…ゴツン! 「いったぁ!?」 真っ直ぐに振り落とされた拳は見事にルイの頭に激突した。ゴツンという鈍い音と共に、歯同士がぶつかる音も聞こえた。 「今のどこに殴る要素があったんだよ!事実だろ!」 「これでも手加減してやったんだからな。」 「はぁ…?」 そしてレオンは彼に背を向けて扉の方へと歩き出した。扉の前まで来てドアノブに手をかざした時、同時に口を開く。 「…そんなん今更分かってる。要は俺も努力して近づいてみろって言いたいんだよ?やってやるよ。」 それを聞き、ルイは少し安心したように静かに笑い、彼の名前を呼んだ。 「レオン君。」 「ん。」 首だけを振り向かせた彼の顔には、もうルイに対する警戒心や憎悪はなくなっていた。 「サクラちゃんは今から大きな課題に取り組むだろう。…それには君が必要だ。どうか彼女を支えてやってくれよ。」 「フッ…当たり前だ。」 そう言い残し、レオンはサッと生徒会室を後にした。 彼が出ていったのを見届けたルイは、殴られた所に手を当てて、フワッと笑った。 「さぁ、俺も準備を始めようかな。…お前にばっか良い所は渡さないからね。俺の永遠のライバル…レオン君。」
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