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38話
「レ、オン…き、聞いてたの…?」
「あぁ、全部な。」
レオンが一歩一歩部屋に入ってくるごとに、私の心臓は大きく飛び跳ねた。嘘……聞かれていたなんて…。レオンの顔を見るのが怖くなった私は、じっと自分の膝を見つめた。
「レオン、あんたの気持ちもわかるけどサクラちゃんを怒らないであげて。」
「うっせぇ!」
お母さんを一言で制し、レオンは私の目の前まで来た。そして私の腕を掴み力ずくで立たせる。
「いた…!」
少しも優しくない彼の行動に私の心は更に傷を作る。呆れられたのかな…嫌われたのかな…。もう、用無しだって思われたのかな。そう思い、涙目になる顔を下に向ける。
「サクラ、こっち向け。」
「……嫌。」
「向けって!」
片手で顎を掴まれ強引に上に向けられる。すると目の前には、声とは裏腹にとても悲しそうに傷ついたような顔を浮かべるレオンが。
「…レオン?」
「お前は…俺をなんだと思ってたんだ?俺は絶対お前と離れたりなんかしねぇよ。それが婚約者とかいう関係が切れようが切れまいが同じことだ!お前の目には俺は、そんな薄情な奴だと見えてたのか?」
フルフルと首を振る。強気に質問する彼が、今までで1番弱く儚そうな印象を受けた。違う…そんなこと思ったことない…!私はただ…。
私の首を振る姿を見て、レオンは一瞬安心したようなほほ笑みを浮かべた。
「なんで俺に1番に打ち明けてくれなかったんだ。」
「だって…」
声が震える。それでも頑張って声をふりしぼりながら言った。
「だって、怖かったんだもん…。」
視線が段々とレオンから離れていく。視線を合わせ続けることが難しくて気恥ずかしくて、斜め横を向きながら話す。
「何が。」
「レオンが私を嫌うんじゃないかって…もう関係がなくなって離れていっちゃうんじゃないかって…。」
「本気でそう思ったのか?」
「ううん…レオンはそんな事するような人じゃないっていつも思い返してた。…でもそれでも心配だったの!他の人じゃない…レオンだからこそ心配だった!レオンは私をいつも救ってくれた、私にとって1番大切で大好きな人だから…!」
そう言い切りレオンを見ると、
「…レオン?」
彼は口に手を当て、少し頬を赤く染めていた。さっきまでバクバクとしていた心臓が冷静さを取り戻し、落ち着き始める。…今そんな照れる雰囲気だった?
「いや…そんな思ってくれてんだなぁって、ちょっとな。」
「そうねぇ、私まで少し照れちゃったわ。」
「レオンのお母さんまで…え?え??」
意味のわからない展開に、私の頭は真っ白になる。さっきまでレオンキレてたのに、急にニマニマしてるし…私何か変なこと言った?するとレオンが謝りながら説明をしてくれた。
「悪ぃ悪ぃ。あのな…。」
「おいサクラ!悪かったって!!」
「もう知らない!レオンなんか大っ嫌い!!」
話を聞いた私は、自分が何か恥ずかしくなってきて家に帰ろうと考えた。廊下を歩き、玄関へ向かい私をレオンは手を伸ばしながら追いかける。
「どこ行くんだよ。」
「帰るの!」
「靴ねぇだろ。」
「…裸足で帰る!」
「んな無茶な……はぁ、全く。」
するとヒョイッと体が持ち上げられ、レオンの腕の中へと収まった。
「裸足で帰ったら怪我すんだろ。明日にでもケイに靴持ってきてもらえ。今日のところはもう夜遅ぇし、ここに泊まってけ。」
ムスッとして返事をしない私にレオンは無言の了承だと捉え、そのままUターンして自分の部屋へと向かった。
部屋に入るとゆっくり私をクッションの上へ下ろす。
「少しは落ち着いたか?」
コクンと頷く私にレオンは少し安心し、ゆっくりと向かい側へと腰を下ろした。
「そんな怒ることないだろ。」
「だって私ずっと悩んでたのに…本当の婚約者じゃないのかもしれないって思ってたのに…レオンもまだ組を継いでなかったなんて!」
そう…組の長同士の婚約と言われ、私はずっとレオンがもう組を継いで長になっていたものと思っていた。しかしあの時…
「あのな、サクラは長でないと婚約の話は無効だって思ってないか?」
「え、うん。」
「あーやっぱりか…。そうじゃなくて、長になる予定の奴も婚約できるんだよ。それに長しかそんなん決められないなら、俺まだ長じゃねぇから俺だってサクラと一緒だぞ。まだなってない中途半端なやつだ。」
「じゃ、じゃあレオン…全部分かってて…?」
「あぁ。」
それを聞き私は今まで行ってきた事が恥ずかしくなったと同時に、気づいていたのに何も言わず私の言葉を聞いていたレオンに腹が立って、部屋から飛び出し、今に至る。
「私だけ不安で悩んで、レオンと離れたくないって言って…すごく恥ずかしかったんだもん。」
「それは悪かったが、だからってあんな怒んなよ、ヒヤッとしたぞ。でも、なんつーか…サンキューな。そんな考えてくれて。俺だけサクラのこと追っかけてるんじゃないかって思ってたからさ。」
「……バカ。」
「はいはい。」
そして私はレオンにルイさんから言われたことを全て話した。承諾書が必要なこと、だから近いうちに私が家に帰ること。レオンは静かに頷きながら私の話を聞き、そして自分も私の家について行くと言い出した。
「で、でも…」
「俺はサクラを1人にしたくない、ただそれだけだ。同情とかそーいうんじゃないし、極力…割り込まないようにする。」
「…うん、私もレオンがいてくれたら心強い。」
そうして私達は日々少しずつ、でも確実に準備進めていった。もう絶対帰ることのないと思っていた家へ、再び立ち入ることになった私。あの時はただ桜蝶一家を継ぐという選択肢を選び、家から逃げていた。でももうあの頃とは違う。
「サクラ。」
「…うん。」
私の隣にはレオンがいる。近くにいなくてもルイさんやケイ、シンヤさん、桜蝶一家の皆がついていてくれる。もう1人じゃない…あの頃の孤独だった私なんていないんだ。
私の震える手にレオンが優しく自分の手を重ね、二人同時にゆっくりと目の前にあるインターホンを鳴らした。
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