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41話
「それで私が1人になるところを狙っていたの?」
「…。」
7人がぐっと唇を噛む。女1人に7人の男達で来たこと、少しはずるいという自覚があるみたい。…それにしても空波一家は総勢20人程の団体だったはず。残りの十数人はどこへ…?
「…笑えるわね、高校生相手に大人数で。…もしかして自信が無いのかしら?それとも、皆でかからないと怖い臆病者?」
と煽りに煽る私に対して、下の者達が騒ぎ立てる。
「なっ…!俺達は確実にお前を狩るために計画を長い間立ててきたんだ。俺らが失敗した時も考えて、外で残り全員待たせて…はっ。」
手を口に当て、しまったと言う顔をする彼に私は軽く微笑む。なるほど、そういうことね。それにしても、そこまで考えた計画性のある行動。もし私が空波一家が20人だと知らなかったら、外に数人待機しているなんてことは分からなかった…。これは本気でやらないと、下手すれば本当に狩られてしまうかもしれない。
口を滑らした男にリーダーと思わしき男が舌打ちをし、不機嫌そうな声を出した。
「チッ…あれだけお前らは黙ってろと言っただろ。」
「す、すんません!」
「まぁまぁ悪気があった訳じゃないんだし、最終的に計画が成功すればいいでしょ。そんなカッカすんなよ。」
彼らがどんな行動をするのか、それを私たちは十分に警戒して見つめた。しかしそれは相手も同じで、高校生ということに油断することなく、私達を自分達と同等として警戒し接している。
お互いがお互いを見つめ続け、誰が先に動くのかと嫌な汗の滲む思いでいると、部屋の端から
「…に……本当に、貴方達何なのよ!!」
と、そう叫ぶ母の声に気を取られ、そちらに視線を移動した途端、
「やれっ!」
一瞬の隙を突かれ、7人同時にこちらへ向かってきた。
「くっ…レオン!」
「ったく、隙を見せてんじゃねぇ!」
そう指摘しながらもレオンは私の動きに合わせ、機敏に対応をする。
お互い背を向け合い、カバーし合う私達。こんなときではあるけれど、レオンが私に背中を預けてくれていると考えると、守られてるだけではなく、私も彼に信用され必要とされていることが感じられて、ポカポカと温かい気持ちになる。しかしそんな思いも束の間、前からは次々と男達が私の首を狙って襲いかかる。
「偽物の長よ、これで終いだ!!」
「そうはいくもんですか!」
右ストレートを交わし、その腹に膝蹴りを食らわせる。次は誰だと周りを見渡そうと顔を上げた時、倒れかけた男の後ろから彼よりも少し小柄な奴が出てきた。嘘でしょ…!隠れていたの!?
「うぉぉぉ…!」
流石にここまでは予想出来なかった。迫り来る腕に対し、驚いたことで重心が後ろにズレ、体勢が崩れつつある私。無理…避けられない!両腕を頭の前でクロスし、痛みを覚悟し目蓋をぎゅっと瞑ったその時、
「はーい、ドーン!」
「ぐぇ!?」
この場にそぐわない緊張感のない声と、まるでカエルが車に轢かれたかのような声がし、パチッと目を開けてみると…、
「え、ケイ!?」
そこには、目を回して倒れている男の上に座っているケイの姿が。
「大丈夫っスか。」
スクッとそのまま男の上で立ち、私を上から下まで一通り見回して、安堵の表情を浮かべる。
「ケイ…どうしてここに?」
「そりゃ心配だったからっスよ。」
「……もしかして、私達をつけてきたの?」
ジトーっと見つめる私に、ケイは慌てて首を横に振る。
「違うッスよ!前に俺もここに来たことあるじゃないっスか。さっき着いたばっかっス!それに来たのは俺だけじゃないっスよ。」
そう言ってケイが親指を立て、自分の後ろを見ろと催促する。彼の肩越しに向こうをを見てみると、
「ボスー、力貸しますぜー!」
「闘いに行くなら言ってくれればいいのに、水臭いですねー。」
遠くから桜蝶一家の皆が手を振りながら笑顔で走ってきて、割れた窓から家の中に入ってきた。勝手にここに来て家に入ってくることは、本当は咎めないといけないことだろうけれど、今は皆が来てくれたことがとてつもなく嬉しくて安心できた。
「全く…ウチの組はお節介な人が多いわね。」
「えぇー、普通こういうときはお礼を言うんですよボス。」
「そーですよー。」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないっスよ。さぁボス、俺らに暴れていい許可をくださいっス。」
ゾロゾロと入ってくる桜蝶一家の皆に、空波一家も流石に焦りが隠せない様子でいる。
「こ、これちょっとヤバいんじゃ…。」
そう言葉を零す下っ端に、リーダーは無線機を使って外にいる人たちに連絡を取る。
「おい!予定変更だ。あと5人ほど追加!早くしろっ!」
それから程なくして5名の空波一家が窓から侵入し、室内12名、外8名となった。しかしどんなに数が増えようが知ったこっちゃない。桜蝶一家がここにいる。それだけでもう私たちは無敵なのだから。
血気盛んなウチの組。彼らの闘いに対する、キラキラと輝いた瞳が私に向けられる。そんな目をされて断るなんてできるわけが無いじゃない。大きく深呼吸をし、早まった鼓動を静める。そう…これが私達。桜蝶一家の闘い方だ…!
「桜の中を可憐に舞う蝶のように今宵も美しく舞いましょうか。」
これは品のない喧嘩や無惨な戦いではない。1つの舞なのだ。一つ一つの動きに魂を込め、美しさを強調する。見ている者を虜にするために、相手に確実な力の差を見せつけるために。決して焦ってはいけない。頭は落ち着きながら、心は何よりも熱く燃やすのだ。
桜は一輪だけでは感動されない。一輪一輪が集まって1つの木になっているからこそ、人々の心を動かす。そしてそれは私達も同じこと。一人一人、誰も欠けることなくここに存在しているからこそ、作り上げることが出来たこの一家。そしてこの一家のおかけで、私や私の周りの人の心は動かされた。『女』という性別関係なしに接してくれる学校の友人に、ヤクザ界での女の在り方の変化。…何よりも全てに諦めを感じていた私に希望の光を射してくれた。
そんな皆で織り成すこの舞こそ桜蝶一家の象徴であり、未来であり、私の全てであるのだ。
私は絶対ここから離れない。皆を見放さない。この組で生き、そしてこの組が消える時に私も息絶える。私の一生をここに…私の命をこの組の皆に託す。
私の居場所はずっと前からここにあったんだ。そしてこれからも、ここにあり続ける。
それからの闘いは、瞬く間に終わりを告げた。
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