8話

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8話

よく目立つ赤色の大きなリボンに、ポンチョのように羽織るベージュの上着。まるでどこかのお嬢様学校に通うかのような制服を着て、私はヤクザの集う栄開高等学校へ向かおうと外へ出る。門から足を踏み出すと同時に後ろから声がかかった。 「「いってらっしゃいませ」」 ビクッと肩を震わせ振り向くと、そこには4、5人の男がニコニコしていた。 「い、いってきます。」 そんな些細な言葉の交わしも家でしたことのない私は、少し戸惑いながら返事をする。 冷たい風が吹くなか、私の心はジーンと温かくなっていた。 「こ、この子が転入してきたサクラさんです。み、皆さんのほうがご存知でしょうから、な、仲良くしてください…。そ、それでは、ホームルームを終わ、終わります。」 チャイムを合図にそそくさと教室を出る、生徒に怯えた眼鏡の男教師。散らばったように置かれている机と椅子。何の校則もないのかと思うほどの荒れた人達。30人の男子に対して5人しかいない女子。隅っこでビクビクと震えているのに、教師は見て見ぬふり。想像通り過ぎてため息が出る。 「はぁ…。」 「おいおいおいー。桜蝶一家の長様はお疲れですかー?」 「…。」 「おやおや、無視ですかい。」 机に肘を置き、手で頭の重さを支えるようにして座っていた私は、話しかけてきた人の顔を睨む。 「…!は、はは。なんだよ。」 パッツン前髪の甘やかされて育ったような顔。この人には悪いけれど、私はこういう顔の人が嫌い。目が合っただけで怯むその姿は、それほど喧嘩は強くないのに強がっているという感じに見える。まぁ、あちらからすれば派手な見た目もしていない私が、大人しく弱い人に見えているのだろうが。 「おい、聞こえてんのかよ!」 胸ぐらを掴まれ、腰が椅子から浮く。男子は面白そうに笑い、女子は怯えた目でこちらを見る。 「…このクラスはあなたがリーダーなのかしら?」 「ふん、そうだ。女どもはどこかの組に仕えてる奴の娘だし、男どもは僕みたいな権力と財力を持っていない。」 「あら、喧嘩はあちらのほうが強そうだけど?」 「はっ。喧嘩に勝ってどうする。どうせ後々、僕の持つ力を使ってねじ伏せられるさ。そんなことも分からないアホは、さすがにいないだろ。」 パッツンのクラスを嘲笑うような笑みに、クラスの雰囲気が一気に悪くなったのが分かる。皆、コイツが嫌いなのか。それでも手を出さないのは、それだけ他の人達の力が弱いのだろう。こんな奴にビクビクするくらいに。 「ふふ、それならあなたはアホね。」 遠回しに喧嘩が弱そうと言っても何も感じていなかったパッツンが、その言葉にピクッと眉を動かした。 「僕がアホだって…?」 「えぇ、だって権力も財力もはるかに上の私に手を出しているんだもの。」 「はっ、アホはお前だ。何を言ってる。女が男の下であるのは、当たり前だ…ゴフッ!」 クラスにどよめきぐ起こる。パッツンは左頬を殴られた衝撃でよろめき、机に腰をぶつけて、床に座り込んだ。 「何す……っ!?」 私は右手首を軽く払いながら、ゴミを見るような目を向ける。 「あら、ごめんなさい。手が滑ったわ。」 「んな…っ!」 「まだ分からないの?」 私は真っ直ぐ相手の顔を見つめる。私を見つめ返す彼の瞳の奥には少しの恐怖が歪んでいた。 「権力も財力も喧嘩も勝てないあなたが、私にそんな偉そうな態度は取れないと言っているのよ?分からないのなら、アホよ。」 「……こんのっ!」 流石に頭に来たのか、急いで立ち上がり腕を大きく振るってくる。 「はぁ…。」 さっきの一発がかなり効いているのか、フラフラしてる上に無駄な動きが多い。ゆっくり過ぎてため息までも出る。腕を大きく動かしている間に、私は彼の鳩尾へ一発入れる。 「ぐっ…!」 相手が折れている間に、上げた足を振り下ろし相手を地面に叩き入れる。 「かはっ!」 ゴンッと鈍い音が聞こえた。気絶はしてないものの焦点がハッキリしていない目でこちらを見る。 「も…やめてくだ、さい。」 その言葉にはっとし、周りの音が入ってきた。 「アイツ、即K.O.じゃん。ざまぁ。」 「えげつな。」 「転入初日でクラスリーダかよ。」 誰もが口を開いて何かをしゃべっている中、彼を可哀想だと言うものは者は1人もいなかった。 「まぁ喧嘩がこの学校の普通だし?俺らも一丁やりますか。」 「ごめんね~サクラちゃんに恨みはないんだけど。」 「そのクソがリーダー落ちて、その日来た女がリーダーになるってのもな。」 数人の男子が束になってこちらに向き直る。そうか、元リーダーが弱くて、だから女である私でも勝てたと思っているのか。そう思い臨戦態勢を整えるが、流石に1人で男子6人を相手に出きる程私は強くない。それにさっきのことで、息切れをしていた。どう切り抜けてやろうかと考えていたところ、 「おい、大丈夫か!」 うちのクラスのドアを思い切り開け、出てきたのは神狼一家の長であり婚約者でもあるレオンさんだった。すぐに状況を飲み込み私の前へ来て、体勢を取る。 「おい、お前。」 レオンさんは少しこちらを見て、話しかけてきた。 「何がどうなってこうなったかは知らないが、コイツらが狙ってるのはお前だろ?後でちゃんと説明しろよ。」 「…うん。」 私が返事をするのと同時にレオンさんは、相手の方へ走り出した。 「はっはは、一度地に落ちた神狼一家が何格好つけてんだよ!」 「その一家の俺を見て、お前のお仲間さんで怯んでる奴いるけど?」 喧嘩は一度でも怯めば終わりだ。そのため、真っ直ぐ躊躇ないレオンさんの拳は、少しでも怯んでスピードが落ちた相手にいとも簡単に届いた。 「ぐあっ!!」 「くそっ!」 「なんで他クラスのお前が俺らのクラスに関わってくるんだよ!」 相手が何人だろうが、1人やられれば皆焦り、恐怖する。それを感じた時点で、レオンさんの狼のような素早さには誰も勝てない。 「そりゃ、婚約者が狙われてるんだ。助けるのが当たり前だろ。」 力の差は圧倒的だった。
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