11人が本棚に入れています
本棚に追加
6
金原の家に行った日から一週間が経った。
幸い、金原の母親にはきちんと恋人だと思ってもらえたらしく、帰り際にはまたいつでも来てね、と誘ってもらうこともできた。とりあえずの目的は達成したが、カモフラージュの継続のためにも、金原の家には定期的に(勉強会も兼ねて)行くことになった。
今日は水族館に行く約束をしていた。駅前で落ち合って一緒にレジャー施設へ向かう。一応、金原の友人に対するフォローも兼ねた擬似デートという名目だが、久住は単純に友達とレジャー施設に遊びに行く心持ちだ。待ち合わせ場所にいた金原も、先日家に行った時の緊張した様子とは打って変わり、いつも通りのリラックスした表情だった。
夏休みということもあり、それなりに混雑していたが、無事にチケットを購入して中に入る。蒸し暑い空気から一転して、ひんやりとした空気が肌を撫で、2人はほ、と息をついた。
*
「おー……」
視界一杯に広がる大水槽を前に、久住は思わず声を漏らす。金原は何も言わなかったが、ちらりと視線を向けると、まじまじと水槽を見つめていた。その瞳は、青い光に照らされ、普段よりきらきらと輝いているように思えた。
水槽の中では、大小様々な魚たちが悠々と泳いでいる。大きなエイがゆったりと眼前を通り過ぎて行き、奥へ戻っていく。その脇を、色とりどりの小さな魚たちが泳いで行った。
「すごいね」
ロクな言葉が出てこず、ただ一言そう漏らした久住に、金原は何を言うでもなく息を吐くように頷いた。
悠々と泳ぐ魚たちを見ていると、周囲の喧騒がどこか遠くに感じられ、時間の流れがゆっくりとしたもののように感じられる。最後に水族館に来た記憶はもう随分と朧げで、こんなに綺麗だったっけ、と久住は新鮮な気持ちで水槽を見上げていた。
そのままいくらでも見ていられるような気がしたが、とん、と後ろから来た子どもが足にぶつかったことで、目の前の景色から意識が逸れた。
後ろから来た親にすみません、と頭を下げられ、いえ、と首を振って微笑む。視線を戻すと、金原がこちらを見ており、そのまま何となく示し合わせて、次の展示へ足を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!