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水槽を1匹で占領しているマンボウや、初めて生で見たチンアナゴにはしゃいだあと、クラゲの水槽に向かう。そこは室内の照明がぐっと落とされ、水槽の中がピンクや青でライトアップされており、まるでイルミネーションのようになっていた。 先ほどまでは家族連れが目立っていたが、ここに来て、カップルの姿がちらほらと目に入る。その中で、水槽の前で写真を撮っているカップルを見つけて、金原が思い出したように声を上げた。 「そうだ、写真撮ってもいい?2人で」 普段金原にはあまり写真を撮る習慣がないので、すっかり忘れていたが、デートに来たら写真の1枚や2枚撮るのが普通なのではないだろうか。友人に万が一見せて、と言われた時のためにも、撮っておいて損はない。そう思い言い出したが、久住はのんびりと「そういえば、せっかく来たのに1枚も撮ってなかったね」と言った。 「さっきの大水槽のところで気づけばよかったな」 言いながら、久住がスマホを取り出してアプリを起動する。水槽の端の方に寄り、自撮りモードにしてカメラを構えた。しかし、画面に映ったのはライトに照らされたクラゲのぼんやりとしたシルエットだけで、肝心の2人の顔は真っ暗で殆ど何も映っていない。 「……暗いね」 試行錯誤して、明るさを調整してみたり、角度を変えてみたりするが、どうにも上手く撮ることができない。 2人は困ったように顔を見合わせて、そのまま先ほどのカップルに視線を向けた。彼らは自撮りをするのではなく、水槽の前で手を繋ぎ、その手をクローズアップして写真におさめているようだった。 その姿を見て、もう一度お互いの顔を見る。しばし真顔で見つめ合ったあと、小さく頷き合い、久住は無言でカメラアプリを閉じた。 「明るい所で撮ろっか……」 「うん」 考えていることは同じだった。いくら付き合っているフリとはいえ、自分たちにあの写真の撮り方はハードルが高い。
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