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屋外のゾーンに出ると、水っぽい魚の臭いがし、むわり、と熱気が体にまとわりつく。屋外にはアシカやペンギンのパフォーマンスステージもあり、小さな子どもの声があちこちから聞こえてきた。どこから回ろうか、と首を動かすと、ちょうど日陰になっているブースにカワウソの水槽が見える。 「琴音、あそこ行かない?カワウソ」 特に回る順番にこだわりのない金原は、ひとつ頷くとそちらの方へ足を向ける。展示はどこも混雑していたが、ちょうど端の方に隙間ができていたので、2人でそこに滑り込むようにして覗いた。 ずっと魚を見てきたので、毛の生えている動物を見るのは久しぶりな気がした。黒々とした瞳が辺りをきょろきょろと見回す様子に、笑みが溢れる。 その中で、1匹、岩場の影でうとうとと今にも眠ってしまいそうなカワウソを見つけ、久住は我慢できずに声を出して笑った。 「あはっ、ねぇ琴音、見てあの子」 指を差すと、金原がその先を追うように久住に体を寄せる。 「どれ?」 「ほら、あの……トンネルのところにいる」 あそこ、と示しながら金原の顔の位置まで屈み、見えるかどうか確認する。漸く見つけたらしい金原が、あぁ、と言って息を吐き出すように笑った。 「あの眠そうな子?」 「そう。さっきからずっとあんな顔してるんだよ」 うとうとと目を瞬かせる様子に、金原も頬を緩ませた。 「かわいい」 そう言うと、久住は「ね」と嬉しそうに声を弾ませる。その楽しげな様子に、金原はくすりと笑って、「写真、ここで撮る?」と声をかけた。 「あ、そうだね!あの子も入れられるかな」 久住がカメラを構え、今度こそ2人で画角に写り込む。 「蓮、もうちょっとこっち来て」 「うん」 金原に促されるまま距離を縮める。肩が触れ合うくらいに近づくと、金原は写り具合を確認するようにスマホをじっと見つめた。小さく頷いたのを見て、そのまま角度を調整する。少し手間取ったが、無事眠そうなカワウソも一緒に画面に収めることができた。 控えめにはい、チーズ、と言いながら、シャッターを押す。いそいそと確認すると、微笑む金原と久住の後ろで、小さく、けれどしっかりとあのカワウソが写っていた。 「ちゃんと入ってる」 「ね、上手くいったね」 2人でスマホを覗き込みながら話す。そこで後ろにも人が詰まっていることに気づき、もう一度先ほどのカワウソを振り返ってから、そのまま場所を譲るように人垣を抜けた。
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