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帰り道、乗り換え駅のホームで並んで電車を待っていると、視界の端に見覚えのある姿が映った気がして、久住は何とはなしに視線をそちらに向けた。特にこれといった人は目に入らず、気のせいかな、と視線を戻そうとした時、人混みの向こうに優しげに微笑む男性が見えて、僅かに目を見張った。 その様子に、金原もそちらに目を向けて、一気に表情を固くした。 視線の先には、金原の兄がいた。連れらしい女性と何か楽しげに話している。 「……びっくりした、すごい偶然だね」 「……そうね」 金原は、2人から視線を逸らすと、隠れるように僅かに後ずさった。出先で家族と遭遇するのは気まずいかもしれない、と久住も視線を逸らそうとした時、女性の方を向いていた顔がこちらを向く。 あ、と思う間もなく、お兄さんは驚いたように目を丸くすると、すぐに人の良さそうな笑顔を浮かべ、小さな会釈をよこした。 久住も慌てて首を下げると、それを見た金原が観念したように久住の影から顔を出した。すると、お兄さんは、そのまま小さくこちらに手を振ってくる。一緒にいた女性も金原に気づいたようで、にこ、と笑顔を浮かべると同じようにして手を振った。 金原が口元をわずかに強張らせたまま小さくそれに手を振り返す。そのまま人混みに紛れて2人の姿が見えなくなると、小さく息を吐いた。 「琴音、一緒にいた人とも知り合いなの?」 「あの2人付き合ってるから。家にも遊びに来たりする」 「あ、そうなんだ……」 金原の顔に僅かに陰りが見え、久住は内心首を傾げる。先日家に行った時も思ったが、金原は兄の話になると決まって表情を固くしていた。話を聞いた限り、小さな頃は仲が良かったらしいが、もしかしたら今は少し苦手に思っているのかもしれない、と思う。 金原が困っているならできる限り力になりたいとは思うが、久住にどうにかできる問題でもない。 僅かに沈んだ様子の金原に、それ以上かける言葉が見つからず、結局久住は苦し紛れに話題を逸らした。 「あー、そうだ、夏休み中、空いてる日にまたどっか行かない?今度は付き合ってるフリとか考えないでさ、遊びに」 そう言うと、金原はきょとり、と目を瞬いた後、ひとつ頷いた。 「今の所お盆以外は暇」 「ほんと?俺も予定殆ど入ってないから、お盆前にどこか行こうよ。どこ行きたい?」 そう聞くと、金原は首を傾げて考え始める。その横顔にはもう陰りは見えず、久住はほ、と胸を撫で下ろしながら、行き先の候補を見つけるためにスマホを開いた。
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