7

2/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
部屋には既にローテーブルとクッションがセットされていた。金原は勉強机の上にあるノートを捲りながら、「今日は何からやる?」と話し始める。その様子は至って普通で、先ほどの椋真に対するものとは全く違う。 じ、と横顔を見つめていると、金原が怪訝そうな声を上げた。 「蓮?」 名前を呼ばれ、ハッとして先ほどの問いかけを思い出す。トートバッグの中を思い出しながら、久住は慌てて口を開いた。 「えっと……こないだ英語やったから、今日は数学にする?俺問題集全然手つけてないんだよね」 「わかった」 不自然には思われなかったようで、金原はすんなりと頷いて教材と筆記用具を手にした。久住もそれに倣い、テーブルの手前に腰を下ろすと、数学の課題を取り出す。 「琴音は今どのくらい進んだ?」 「私もまだ全然やってない」 小さな机の上に問題集とノートを広げ、お互いの進捗状況を見せ合う。久住は最初の1、2問にだけ手をつけていたが、金原は全くの白紙だった。 それを見た金原は、少しだけ気まずそうに「数学あんま好きじゃないの」と言った。どうやら好きなものから先に終わらせるタイプらしい。 「じゃあ一緒にやろ。わかんないとこあったら俺教えられるかもしれないし」 励ますように言うと、金原は眉尻を下げて頷いた。情けないような表情をするのが珍しくて、少しおかしかった。 問題を解きながら、ちらりと視線を上げると、金原が眉間に皺を寄せてノートと向き合っている。金原は表情をあまり変えないクールなタイプだが、以前より随分色んな顔を見せてくれるようになったと思う。 金原は無愛想なところがあるが、根は優しく気遣い屋だということは、あまり長くない付き合いでもよく知っているつもりだった。だからこそ、椋真に対する金原のあからさまな態度は、腑に落ちない所があった。 いくら家庭の事情が絡んでいるとはいえ、義理の兄にあそこまで冷たく接するだろうか。そう思う反面、だからこそ、自分にはわからない何かがあるのかもしれない、とも思う。どのみち、踏み込んだことを聞く勇気はなく、久住は思考を一旦止めて目の前の課題に集中することにした。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!