高校生編 18話 爆発と衝突

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高校生編 18話 爆発と衝突

 アパートに帰っても、さっきまでのシーンや言葉の数々に、唸るように頭をかかえた。  なんで美羽が、わたしにイチャイチャをアピールすることがあるんだろうか。だって、ダブルデートだったんだよね。こっちは一応彼氏同伴の設定だったのに。お互い、どっちのカップルがイチャコラ度高いかの勝負でもしたかったんだろうか。  だけど、浩太郎はあの時、ハッキリ言った。 『付き合ってない』  わたしが勝手に思い込んでたようだけど、もしそれが本当なら、付き合っていないけどわたしたちラブラブよアピールを、何度も言うが“一応彼氏同伴の設定だったわたし”に見せたかった、ということになる。……余計意味がわからん。  それに。  今もなお、熱を持っているような右手。  指切りげんまんのように結ばれた小指同士は、いったいどんな意味を含んでいたんだろうか。  まるで、救いを求めるかのような彼の言動を、わたしはどう受け止めればいいんだろうか。  ジッと小指を見つめると、そこから熱が手のひらに腕に身体にと、どんどん広がって熱く火照る。部屋の扇風機の前にかじりつくようにして風量を最強にする。  なんで指が触れただけでこんなに身体がいうこときかないのか。なんで浩太郎相手だと、すべての五感が敏感になるんだろうか。  扇風機の風が強すぎて目を瞑ると、すぐに鮮明に浮かび上がる浩太郎の顔。  すべらかな頬や、綺麗な鼻筋、アーモンド形の瞳に長い睫毛の1本1本までも、見事によみがえる。  もう、どうしようもないところまで落ちてしまったようだ。  認めざるをえない。だって、こんなに胸がモヤモヤして苦しくて、メソメソ思い悩まされるのは、浩太郎の時だけなんだから。  どうしようもなく、浩太郎が好きなんだ。 「あーっちくしょーっ!」  らしくない。こんな乙女ぶった自分がこそばゆくてしかたないのに、それ以上にタガが外れたように、無性に浩太郎に飛び付きたい。  バッグからスマホを引っ張り出して、浩太郎の名前をタップする。躊躇ったのは一瞬で、人差し指はすぐに動いた。 『話したいことある』  そのまま画面を睨み付けるようにしたが、少し考えて文字を追加した。 『塾、いつ終わる?』  まるでもう、告白しちゃったよっ、てなくらい心臓のバクバクが激しくて、指先が律儀に震えてきた。  だけど、いつまでもひとりで悶々するのは性にあわないし、とにかくこの滾るような身体の軋みを解放したくて、送信ボタンを押した。 「だーっ!」  ジッとしてられなくてベッドに顔を埋める。  ひょっとしたら、これ人生初の告白をしようって段階じゃないか、と自覚するにつれ発狂しそうなほど恥ずかしくなってくる。  浩太郎の気持ちはどうなのか、正直わからない。だけど、あんなにすがるような瞳で見つめられて、指を絡めてきて。  わたしがそばにいてあげることが、正解なような気がしてしまう。あの瞬間は、求められていたんだと、それだけはさすがにバカなわたしでもわかったんだ。  ちゃんと好きだと告げよう。好きだから浩太郎の力になりたい、助けてあげたいと、そう言おう。  そしたら、わたしたちは、誰にも隠さず堂々としたお付き合いが、できる。なんの引け目も感じず、ごく当たり前のカップルになれるんじゃないだろうか。  喋りたい時に連絡して、会いたくなったら抱きついて、そんなことが当たり前になるんだとしたら、それはやっぱり浩太郎がいい。  ブブーッと、手に握りしめていたスマホが鳴って、浩太郎からの着信を告げていた。  再びドッと汗が吹き出す。もう指先どころか手元が震えてしかたないので、耳にベタッと押し付けるようにして押さえた。 「も、もしもしっ」 『葉月ちゃんっ?!』  ザザッとした雑音の向こうで、声を押し殺した浩太郎の声がした。 「こ、浩太郎っ、大丈夫? 塾は? メールでよかったのに」 『あ、うん。今、ちょっと抜け出した。始まる前だから大丈夫』  雑音と抑えた声は、多分場所移動しているからなのだろう。 「そ、そうか、なんか、ごめん。あの、えっと、」 『葉月ちゃん、電話じゃなくて、会って話そう。会いたい』 「……え……」  不意打ちすぎるその言葉に、絶句してる間に、電話の向こうのざわつきが大きくなっていた。 『ごめん、もうそろそろだから。また、連絡する。今日はもう遅くなるし』 「あ、うんっ」 『葉月ちゃん』 「うっ?」 『……おやすみ』 「……う、ん。おやすみ……」  それでもまだ、スマホの向こうからざわめきが届く。もう会話は終わった。なのに、スマホを耳にあてたままでいる。浩太郎は、電話を切り忘れたんだろうか。声は聴こえないけど、向こうの塾の気配だけが電話越しに伝わってくる。  こーたろー、と誰かの声が遠くから聞こえて、『……じゃあ』ともう一度だけ、聞こえてプツリと静かになった。  やっと体が動かせる状態になって、よたよたと這うように再び扇風機の前に戻る。  熱くて、熱くて、たまらない。今きっと茹でタコに勝てるほど真っ赤だと思う。  ああどうしよう。すっごいドキドキした。たかが電話で、本題すら告げてないというのに。  浩太郎の声音が、わたしを呼ぶ声が、言葉のひとつひとつが、身ひとつじゃ抱えきれないほど膨らんで、フワフワ浮き上がってしまいそうになる。 「どうしよう、めっちゃ好き……」
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