270人が本棚に入れています
本棚に追加
とにかく待ちきれなかった。
少しでも早く会って、気持ちをぶつけたくてしかたない。
だけどダブルデートで休みを取ったばかりだから、バイトの5連続出勤がある。夕方からは浩太郎が塾で、思うようにいかない。
しかも、次のバイト休みの日には、浩太郎は合宿期間に入るらしく、まったくもって会えなくなるという。
だからダブルデートから3日目の早々に、わたしはバイトを終えたその足でそのまま浩太郎の通う塾に向かい、待ち伏せすることにした。
だいぶ時間を潰すことになったけど、塾の出入口付近に人の気配が現れ、ポロポロと生徒達が出てくる。
浩太郎の自転車があるのもちゃんと確認したから、あとは出てくるのを待つだけ。
ソワソワしながら出てくる顔ぶれをチェックしていると、美羽と視線がぶつかった。
瞬間にヒロ君の台詞が浮かんで、はっきりしない不安が胸をかすめる。
美羽は、周囲の子に何か告げると、駆けてこっちにやってきた。
「葉月ちゃん!」
勢い良く呼ばれて、思わずどもりながら「どーも」と、挨拶にもなってない反応を返した。
「話があるの、ちょっとお茶しない?」
「え?」
「ね、いいでしょ、いこっ!」
半ば強引に腕を取られた。急にどうしたんだろか。引っ張られながら塾の出入口へと振り返るも、まだ浩太郎が出てくる様子はない。
浩太郎に用事があるんだけども、と美羽にも言いづらく、渋々引きずられるように後についていく。
一番近くにあったファストフード店に入る。カウンターで注文してドリンクを受け取ると、店内奥のほうの席についた。ここからでは、外の様子がわからない。今夜は浩太郎を諦めねばならないようだ……。
ふたりで向き合う小さなテーブルだと、真っ正面から美羽をとらえることになるが、ほんとに美少女だなと思った。今日も風にフワフワと舞いそうなワンピースを可憐に着こなしている。わたしが絶対似合わないやつだ。
「どうしたの? なんかあったの?」
わたしはズズッと、ドリンクのストローを吸って喉を潤してから切り出した。
「葉月ちゃん、あのね……」
美羽はまだドリンクに手を付ける気はないのか、両手を膝の上に揃えたままジッと机の一点を見つめている。
その硬い雰囲気に、ストローから口を離した。
美羽の視線が上がってしっかりと見つめられた。
「葉月ちゃん、お願いだから浩太郎君にちょっかい出すの、やめてくれない?」
「……へ?」
緊迫感に欠く間抜けな声が漏れてしまった。意味がわからなくて、目を見開いて美羽を見た。
美羽の視線は鋭かった。
「浩太郎君が、葉月ちゃんのアパートに通うようになってから、成績が落ちたの知ってる? 葉月ちゃんて、昔から疫病神だよね」
色々引っ掛かるし言いたいことあるが、美羽は息継ぎもそこそこに続ける。
「なんで自分で気付けないかなー。どれだけ不釣り合いだと思ってるの? 小学校の時もそう。浩太郎君は優しいから振り払いきれなかっただけで。それを特別だと思ってるってのが勘違い甚だしいのよ」
「はぁあっ?!」
感情をぶつけられた勢いでわたしも着火し、ドンッとテーブルを叩いた。だけど、目の前の美羽はフッと可笑しそうに笑ってやがる。
「そういうとこよ。野蛮でハデな葉月ちゃん、ほんと成長してない」
最初のコメントを投稿しよう!