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わたしが固まってるのをどう解釈して肯定と捉えてんのか、スッと立ち上がり一歩前に寄ってきた。
目の前が股間だ。手を伸ばせば股間だ。
「え」
「僕、手を縛られてるし」
何故か誇らしげに言う浩太郎。違うぞ。ソレは誇らしいことではないんだぞ。てか、自分を守る為にやったことが仇になってんじゃん。
「外そうか?」
立ち上がろうとしたけど、浩太郎がさらに前に寄ってきて、そのタイミングを逃した。
「時間がないから、お願い、葉月ちゃん」
「えーーっ」
わたし、脱がされることも脱がしてあげることもしたことないんですけどっ。ちょっと、意外にハードル高いよこれっ。
見上げると、キラキラな王子様顔が見下ろしてきている。グレーの詰め襟学ランは、その王子様顔をとても映えさせてる、てかすごい似合いすぎっ。襟についてる学章が、もはやどこぞの王国のものにすら見えてくる。
「葉月ちゃん、とりあえずこの上着の前、開けてくれる?」
注文が多いなっ。
「わ、わかったわかった」
詰め襟辺りに手を伸ばして、チャックの金具を下ろす。ジーーッと鳴るその音が、小さい部屋に妙に響く。
「ベルト外してくれる?」
なんでか知らんが、言われるがまま指示をあおぐ形になっている。
目の前の黒いベルトを外す。カチャカチャ鳴る音が、以下同文。
どうせ指示されるのがわかってるので、わたしから進んでズボンのチャックを下ろ……すんだけど、すでにテントを張ってるそこに、チャックの軌道がぶつからないように手前に引っ張りながら、慎重に作業することになった。だから余計に意識がソコばっかりに集中してしかたない。
難関を突発してホッと一息ついてから、ズボンを足元まで下げてあげると、浩太郎は足を抜いて完全なるパンイチになった。
そこからチラリと視線を上げると、浩太郎の瞳とバチコンと視線がぶつかった。
「……」
「……」
部屋には沈黙だけがあるが、お互いテレパシーを使いこなせたのかと言うぐらい、ものすごーく意志疎通が出来ていた。
わたしは黙って、浩太郎のパンツにも手をかけた。
「ていやっ!」と心の中で気合いを入れて、てかヤケクソで一気にその手を下げる。
「っはぁ……」
浩太郎の、何か解き放たれたかのような、安堵なのか興奮なのかわからないセクシーな吐息が漏れた。
だけどわたしのほうは、目の前に現れたモンスターと対峙して、固まってしまった。
如月浩太郎という、王子様が持つにはイメージが悪すぎる。
よくよく考えたら、わたしは今まで彼氏のモノをちゃんと見たことがない。だいたいいつも盛ってる彼氏達に気付いたら挿れられてて、こんなにガッツリクッキリハッキリ至近距離で見たことがない。
え? こんなにかわいくないものなの?!
呆然として、ただただ一点に視線を降り注ぎまくっていたが、そのモンスターが突如動いた。
あ、モンスターじゃなくて、浩太郎が再び正座したようだ。
「では、お願いします」
厳かに言ってきた。
「は、い……了解です」
流れでそれを受けた。
浩太郎の腿の間からニョッキと力強く立ち上がっているモンスターを、わたしは退治すべく足先に力を込める。
足裏って、すごい敏感なんだね。
モンスターのスルスルスベスベの感触と、カチカチな硬さのギャップに恐れおののきながら、挟み込んで両サイドから擦るように動かす。
「っはぁ、葉月ちゃん……すごいね」
何がすごいんだ、追及はしないが何がすごいんだっ。
全身を震わせて、真っ赤な顔して呻く浩太郎が、エッチすぎる。視覚的にこれは危険すぎっ。
見ないように顔を伏せて、足だけをコシコシ動かす。
「葉月ちゃん……僕を見て……こんなに残念な僕を、蔑むようにっ」
浩太郎よ、わたしはむしろアンタを尊敬すらしてるよ……。
とにかく必死に足を動かした。かなりきついから。足つりそうだから。さっさと終わらせたいからっ。
その成果があったのか、急にモンスターがビクビクと痙攣した。退治できたと喜んだところで、敵は白い液をわたしの足にかけて最後の悪あがきを終え、ふにゃりと息絶えた……。
「はぁはぁはぁ」
浩太郎は項垂れ、サラサラの髪の毛も無防備に垂れている。そしてそのままポフンとわたしの腿の上に頭を倒してきた。
「え」
突然すぎて固まったわたしは、全身で息をつく浩太郎の吐息がスカート越しでも熱くって、ふるりと震えが走った。
そっからピクリとも動こうとしない浩太郎に、わたしはだんだんモヤモヤ落ち着かなくなってくる。
「こ、浩太郎さんや」
「んっ」
「わたしは無事役目を終えましたよっ」
「ん」
「……」
力尽きてんのか果てて意識が飛んでんのか、まったく動こうとしない。やむなくベッド上で後ろにズズイと無理矢理さがった。ポフッと浩太郎の顔面がベッドに沈む。それを放置してわたしはティッシュ箱から何枚も引っ張り出して、ペッタリ足についたモンスターの残骸を拭いまくった。
その後、復活したモンスターの母体――浩太郎は、目の前に現れた時のようにキッチリ制服を着て、高級自転車に股がり、とてもさわやかな笑顔で手を振って、塾に向かってペダルをこぎ出した。
「もう、現れるんじゃないぞ、達者でなっ」
わたしは赤錆びだらけの二階外廊下の手摺から、そう声をかけて本気で「あばよ」の願いと共に手を振り返した。
それが、一ヶ月前の話。
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