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社会人編 1話 OL生活
高校卒業してすぐ就職した。母の知り合いの会社に入れさせてもらった形なので、いわゆるコネというやつ。コネっていってもゆっるーい、地元あるあるな感じの、人手が足りないけどよくわからない子よりも知り合いの子を、って流れで決まった。
小規模な建設会社で、社長夫婦と従業員が十数人。わたしのメインの仕事はひたすら伝票処理で、発注と納品処理を担当するお姉さんの補佐みたいなのだ。時々、他の業務の助っ人というか補佐に回ることはあれど、そこまで難しいと思ったことはない。
高校時代のパン屋のバイトで、薄々感じてたことがはっきり証明されたんだけど、とにかく数字にわたしは弱い。そんなわたしが出来るのかと心配だったが、パソコン触ったり操作覚えることはそんなに苦ではなくって、手元の伝票を打ち込むだけなので、数字を覚えることはしなくていい。……つまり天職だったっ。わたしはメキメキと上達し、スピードを上げ、無我夢中でキーボードを打つマシーンと化した。
我ながらカッコいい。就職と同時に髪の毛の色を抑え、ストパーをかけた。化粧も大人っぽく見せるために色を爽やか系にチェンジ。職場の制服は、よくある事務員の紺色ベストとタイトスカートだけど、なにげにOL風に憧れがあったので気に入っている。
完璧だ。まるで理想的なキャリアウーマンになれた気がする。あんなアホな学生時代を過ごしていたとは、きっと誰も思えないだろう。
「はづきちゃん、そろそろ昼食べよっか」
大きく伸びをした先輩OLの岡本さんがそう声をかけてくれて、2人で間仕切りで仕切っただけの応接コーナーへ移動する。
そこで高校生の子供さんがいる岡本さんは弁当を広げ、わたしは通りすがりのコンビニで買っておいたサンドイッチを置く。
「もう、はづきちゃん、今日もコンビニ? 遠慮しなくても作ってきてあげるから、やっぱり今度からそうしましょ?」
以前から「子供と旦那の弁当作るついでだから」と言ってきてくれてたのだが、さすがにそれは図々しすぎると断り続けているところだ。
「大丈夫ですって、昼だけですから。夜はちゃんと自炊してますよ」
自炊の内容はともかく、していることには変わりないのでそう言っておく。
「そぅお? なんか娘世代だから、おばちゃん心配になっちゃうのよねえ。一人暮らしのほうはうまくいってるの? 変なのが周りにいたりしない?」
「全然大丈夫ですって」
うちの母親より心配性な岡本さんに、つい噴き出してしまった。
「はづきちゃんは自覚が足りないのよー。こんなかわいらしい子、絶対ひとりでいさせたら危険だわー……」
岡本さんが、なにも前例がないというのに何かを妄想して険しい表情になっている。
「心配しすぎですって」
「何を言うのやら。この会社の若い子だけじゃないのよ、バイトメンバーだって、はづきちゃん狙ってウキャウキャしてんだから」
「あ、あぁ……」
それは、確かに自覚ある。てか、それはわたしだからではなくて、この職場に独身の女子が自分だけのせいだからである。社長夫人と岡本さんと、あとわたしだけなんだったらそりゃあウキャウキャなる。
「はづきちゃんは、まだ彼氏いないの? 本当に? 作る気ないって言ってたけど」
「はい、まったく興味なくなりました」
岡本さんは瞬きしている。そして何故か深い溜息を漏らしてもいる。
「……もったいないわ……でも、色々あったんでしょうね……そうよね、無理に作るものじゃないわよね」
どうしよう、また岡本さんの謎の妄想が始まってしまったようだ。
「なーんもありませんからね。ほんとノーテンキに過ごしてきて現在進行形なだけですよー」
ほんとに我ながらノーテンキな学生時代だったと思う。そこそこ彼氏できてそこそこ青春謳歌して。目一杯遊んだことに関しては自信あるし。そんなに辛いことも……。
フワッと何か浮かび上がりそうになって、慌ててサンドイッチの角にかぶりついた。
順風満帆だ。これ、最近覚えた四文字熟語。まさにわたしは今、仕事にやる気をみなぎらせ、自分で働いたお金で生活して、時々友達と弾けて、健やかに眠りについて。とっても理想的な生活サイクルを手にいれている。
だからわたしに彼氏なんて必要ない。てか作りたくない。もう、なにもかも鈍感なままでいたいから。
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