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高校生編 3話 いつもにプラス
誰が週3回と言った?
塾、週に3回も通ってるなんて聞いてない。いや、もっと言うなら塾は平日5日間も行ってるらしいが、浩太郎の学校からわたしの家を通った先の塾には3回通ってるらしい。
つまりその3回、欠かさずモンスターを連れてやってくるようになってしまったっ。
おかげで、最初の頃辛いほどあった腿裏やふくらはぎの筋肉痛が、今まったく起きない。鍛えられてるやんっ。
「っふぅ……んんっ」
だがしかし、相変わらず悶える浩太郎のビジュアルは最高で、ついつい集中してしまう。
左足裏でモンスターを支えるようにして、右足の親指と人差し指の間を使ってコスコスと擦ってやる。時々ギュッと押し込むように力を入れてみたり、親指だけで上から下までツツツとソフトに滑らせてみせたり。
「っは……葉月ちゃんっ」
ウルウルの瞳で睫毛震わせて見つめられる。わたしを呼ぶその甘い声に、やっぱりゾクゾクとしたものが訪れてしまう。
だけど、それはそれ、これはこれで。この姿勢を維持しながら足先を動かすのは短期集中作業で。なのに最近、浩太郎のモンスターが少しずつ耐性を持ち始めたらしく、なかなか息絶えない。
「ちょっと、少し休憩させてっ」
ほんとは、一気に攻め立てたほうがいいのはわかってるんだけど、さすがに足や股関節が辛くなってきて、そのまま後ろのベッドへパタンと倒れた。
なにかもっと新たな刺激を与えたほうがいいのだろうか。例えばなんだろか……。
「葉月ちゃん」
モソッと、後ろ手に縛られた不自然な状態で、浩太郎が覗き込んできた。
「なに? もうちょっと待って」
「提案があるんだけど」
上気させた頬をさらに赤く染めて、浩太郎は言う。
「視覚的な刺激が欲しいんだ」
「視覚?」
コクンと浩太郎は頷く。
「葉月ちゃん、最近僕を蔑んだ軽蔑したような目で見てくれないでしょ?」
「……いや、わたし最初からそんな目で見てもなかったけども」
「今、どちらかというと、すごく真面目な表情ばっかで」
「そりゃもう、気持ちは職人だからね、必死だからねっ」
「だから、葉月ちゃんの真面目な顔見てると、なかなかイキにくくて」
「……たしかに」
言われて見ればそうだ。わたしだってきっと萎えるわ、相手が真顔でしてたら。
「そこで、葉月ちゃんの下着を見ながらしてみようかと」
「…………はっ?!」
思わずガバリとベッドから上体を起こした。若干捲れあがっていただろう制服のスカートの裾を押さえる。
「なっ、なんでそんな発想になんのよっ」
「塾でそういう話を聞いたんだ。みんな雑誌見てするみたいだね。僕は全然、うんともすんともだけども」
何をするって? 何がうんともすんともだって? 塾でいったい何を勉強してんだっ。
「お願い、葉月ちゃん」
後ろ手で縛られて下半身丸出しのイケメンのお願いは、不憫さがすごすぎて説得力盛り盛りである。
「わ、わかった。早く終わるのに越したことないもんね」
「ありがとう」
「どういたしまして」
なんだこれ。
自分でも何やってんだかよくわかんなくなってきた。でも浩太郎はイソイソと定位置へ戻り正座して待機。期待で高揚した表情を隠しもせず見せている。
こっちは複雑で重苦しい気持ちが連動したかのように、ノッソリとベッドのふちに座り直した。
……今日、どんなの穿いてたっけ……。
「ちょ、ちょっと確認だけさせてっ」
「うん」
クルンと浩太郎に背を向けて、スカートを捲る。青いパンツだ。デザインも白のボーダーとかで、透けてもないし無難なやつ。よしっ。
再び正面に向き直った。浩太郎は姿勢良く待機している。
「んじゃ、いくよ」
「うん」
スカートの裾を持ち上げて、上へと上げていく。浩太郎が少し前のめりになる。
「もうちょっと足開いて」
「え」
注文つけやがったよコイツ。なんなんだよ、誰の為にがんばってやってんだよっ。
だけど、キラッキラの瞳を食い入るようにして、綺麗な唇をキュッと引き締めたあとゴックンと喉仏を揺らすイケメンを見てしまうと、その文句も発声する前に萎んでいく。素直に足を開いてみせた。
「っわぁ……葉月ちゃんの、パンツだ……」
「だ、黙って見てくれっ」
モゾモゾと浩太郎が体を揺すった。見るとモンスターが見るからに硬さを取り戻している。
わたしは条件反射で足先を持っていき、それからコシコシと苛めに取りかかる。
「っあ、気持ちいっ」
浩太郎は頭をブンブン振っては、わたしのパンツを見て、また前のめりになりかけては、クッと耐えるようにパンツを見て。
……なんだこれは。
いや、疑ってはダメだ、職人になれ。迷いは足先に響く、そしてモンスターに悟られナメられるっ。
職人マインドか、はたまたパンツ効果か、いつもよりも早くモンスターは音を上げ、白旗ならぬ白濁を散らした。
やった、と喜ぶ間もなく果てた浩太郎がそのまま突っ伏してきた。生腿の間に浩太郎の顔が埋まる。
「ひゃっ!」
慌てて浩太郎の頭を持ち上げようとするも重たいし、なんだったらスリスリ頬擦りしているような気さえする。
「ちょっ、ちょっと?!」
「んーっ、気持ちいい、スベスベ、柔らかい」
「へ、へんたーい!!」
ベッド後方へ逃げるようにさがると、ボフンと勢い良く浩太郎の顔面がベッドへ着地した。
「葉月ちゃん、痛い」
柔らかいとはいえ、高い鼻を思いっきりぶつけたようだ。少し赤らんだ鼻で、恨めしそうに見上げてくる。
「自業自得じゃっ」
ティッシュ箱を抱き締めて、足元を拭く。それから一応情けで、浩太郎のモンスターも拭いてやる。
「っ」
ピクンと余力があるのか、僅かに震える浩太郎。チラリと見ると、長い睫毛が伏せぎみで、頬を染めポンヤリと気だるげに開かれた唇と、とにかくずっと見ていられるその横顔。わたしが強めにティッシュで擦ると、その度に吐息を漏らすのが、なんだかゾクゾクしてたまらない。
ふと、視線が合った。モンスターを横から拭いてあげてたので、ものすごい至近距離でイケメンを拝む形になる。
浩太郎の喉が静かに鳴る。それから、何故か顔が近付いてきて、柔らかい唇が押し付けられた。
「え」
驚いて固まってる中、浩太郎は掠れた声で「ありがと」と呟く。
あ、ああ、そういうことか。ビックリした。お礼のキスか。お礼のキス? ある? あるかな、あるんだろな。
なんか頭の混乱が激しくて、ガバッと立ち上がりティッシュをゴミ箱へ投げつけ、浩太郎の手を縛っていたリボンをほどく。
そこからはいつものように、ちゃんと制服を着直して、「お邪魔しました」と言う浩太郎を二階の外廊下から見送る。自転車に股がって、こちらを見上げる顔にはもうほとんど赤みはなく、清らか王子様が復活していて、手を振ってからペダルを漕ぎ出すその後ろ姿を、ボケーと見送る。
いつも通りで、いつもとちょっと何か違っていた。
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