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高校生編 4話 主導権とは
「浩太郎、今日はひと味違う攻めかたするから、覚悟しな」
「……うん」
いつも通り、下半身スッポンポンの、後ろ手で手首を縛られ正座している浩太郎の前で、腕を組み偉そうに言ってみた。
わたしは今から女優になるの。いや、女王様となって浩太郎にお仕置きをしていくの。ほら、もうすっかり成りきってるわたしに、浩太郎ったら呆然としちゃってるわおほほほほ。
「葉月ちゃん」
「女王様とお呼び」
「……その、顔につけてるのはひょっとして……」
「あら、気づいた?」
浩太郎がここへ来るまでに急いでこしらえたのだ。ダンボールをチョキチョキ切って輪ゴムを繋げて、即席にしては上出来だ。
「女王様といったらやっぱこれ、蝶の仮面でしょ?」
目元に羽を広げた蝶をイメージしたものを張り付けてるので余計に気分はノッている。
「あ……蝶の仮面か……てっきり蛾……」
「ちょっと、何言いかけた? 今っ」
「なんでもないです」
何故か視線をそらされた。まあいいさ。すましていられるのも今だけなのだよ浩太郎。
「悪い子はお仕置きが必要ね」
顎をクイッと持ち上げてこちらに向かせる。少し驚いたように見開かれた浩太郎の瞳がとても綺麗な透き通るような茶色で、一瞬素に戻りそうになったが堪えた。
「今日は、声を出したら最後までイカしたげない」
「えっ」
浩太郎の美しい顔が不安で曇った。
「どんなに気持ち良くても声出したら、おしまい。どう? 今日のテーマ“お仕置き”」
「自信が、ないな」
「そーでしょそーでしょ。浩太郎いっつも声漏らしてるもんね」
浩太郎の綺麗な頬に赤みがさした。
「……今日は、我慢するよ」
「ほほう。その言葉、しっかり覚えておくといいわおほほほほ」
いつもと逆で、浩太郎をベッドに腰掛けさせ、わたしが足元へ座る。
長い睫毛をハタハタと何度も瞬きさせ、何か言いたげにしているが、さすが真面目な性格だ。言われたことは守るようにと育てられてきたゆえか、不安なくせに我慢して言葉を発してはいけないというのを守っている。
そうなるとどうなるか。わたしのヤル気スイッチが余計に入る。
「じゃあ、いっきまーす」
正座から膝をつくようにして、モンスターを視界にとらえた。
実はやったことはないが、手でモンスターを苛めヌイて、参ったと言わせてやるつもりだ。
手を伸ばす。ヒクッとモンスターが振れた。だけど、何故かそのまま浩太郎はモンスターごとベッドの上でズリズリと後退する。
「え、ちょっと」
わたしは追うようにベッドへ上がったけど、浩太郎は背中を向けるように体をよじって、モンスターを触らせようとしない。
「なんでなんでっ」
後ろから手を伸ばすも腿と脇腹で上手くガードされて、しばしドッタバッタとベッド上で格闘する。すぐに息が上がったのは不健康生活まっしぐらな、わたしのほうだった。
ゼェハァと両手をついて、呼吸を整えながら頭を上げて浩太郎を睨む。だけど奴は頭をフルフルと振って拒絶を訴えている。
「喋るの許すから、何がダメなのか言いなさいよっ」
それでやっと浩太郎のキュッと閉じられた唇が、ふわりと開いた。
「……まさかとは思うけど、葉月ちゃん、手で僕のをしごくつもりだった?」
「その通りよ、むしろ何がダメなのか意味わかんない」
「ダメだよ。そんなの、僕、無理」
「だから何がダメなのよっ」
「だって……我慢できなくなる」
「だからその我慢の瀬戸際のせめぎあいを楽しもうかと思ってんだって」
「……僕にはもっと、色々な意味の我慢が、必要になるんだって」
「いーではないか」
思わず続けて言いそうになったけど、わたしは“浩太郎の気持ちよさに耐えられず悶絶するビジュアル”をとても楽しく拝見させていただいてるのだ。むしろそれが見れるから、この妙チクリンな儀式を週に3回行ってると言ってもいい。
目の前で真っ赤になっている浩太郎は、チラチラとこちらを窺うように視線を送ってくる。
「……僕だけが、気持ち良くなってるのも、なんか申し訳ないんだ。できれば、その、葉月ちゃんにも気持ち良くなって欲しい」
「……は?」
何も申し訳なく思うことなんかない。最初はそりゃ、なんでこんなことやってんだとは思ってたけど。今は割りと楽しんでる。だって、こんなイケメンを好きなように苛めていいなんて、なんのご褒美だと思い始めたから。本人には絶対言えないけど。
「葉月ちゃんが手を使うなら、僕も、使っていい?」
「……」
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