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モゾモゾと浩太郎が身じろぎする。何故かモンスターがムクムク立ち上がりかけている。
「……手を使う、とは?」
「僕も葉月ちゃんを触りたい」
「でもそれじゃあ、浩太郎の望む“苛められたい”と、かけ離れるんじゃない?」
「葉月ちゃんやっぱり誤解してる。僕、別に苛められたいとは一度も言ってないから」
「え?!」
おや、違うのか?! あ、蔑んだ目でなんたらかんたらの部分で思い込んでただけ?
「えーと、じゃあ、浩太郎が望むことって、なんだっけ?」
「イケナイって思ってることを、したい。……女性に、触れたいって気持ちが強くなってきてて……葉月ちゃん、触ってもいい?」
「……」
なんだろ。軽く頷けない。
別に処女ではないし、触られるぐらいでビビるほど純でもない。今さら渋ってどーするって感じだし。だけど相手が浩太郎となると、身構えてしまう。軽く、やっちゃおーう、ってノリではいけない。
「うーん……ちょっと、考えさせて」
「えっ」
明らかに悲しそうな表情をする浩太郎に、慌てて両手の平を振った。
「あ、嫌とかそーゆうのじゃないからっ。精神統一的な?」
「精神統一……」
「そうそうっ。忘れてるかもしれないけど、ほら、わたしもこれで一応乙女だし? 簡単に頷くの、おかしいっしょ」
「葉月ちゃんは、今も昔もずっと女の子だよ。……だから触れたいんだ」
「……お、おう……そりゃ、どうも……」
な、なんか雰囲気が妙に甘くて濃いっ。なんだこれっ。モゾモゾするっ。
「葉月ちゃん」
ポツリと呟いて、上目遣いで見つめる浩太郎の瞳も妙に熱っぽい。足を動かし、モゾリとにじり寄ってきた。
「あっ、じゃあまあそういうことでっ!」
なんか目に見えないクモの巣みたいなのを、振り払いぶち切るように立ち上がった。
「ほら、明後日もどーせ来るんでしょ? そん時に! ね!」
「……明後日、いいの?」
「た、多分っ」
この場だけの言い逃れの勢いで言ってしまったが、とりあえず悟られないように大きく頷いてみせた。勢いでダンボールの仮面がずり落ちる。
「わかった」
すんなり浩太郎はそう言うと、ベッドから降りて後ろ向きで手首を差し出した。セーラー服のリボンで縛ったままだからだ。ちょっと躊躇ったものの、てかなんで躊躇ったのかも自分でわかんないけど、とにかくほどかないことには浩太郎も塾へ行けないし下半身スッポンポンのままだし。
シュルシュルとリボンが音を立てる。自由になった手首を片方ずつ揉みこんで、パンツとズボンを拾って穿いて。鞄を持ったから帰るのだろうと思ったら。
ふいにこちらに振り向いた浩太郎の色素の薄い大きな瞳と、スラリとした鼻筋と、綺麗な色の唇の距離が近くて。てか近付いてきて、チュッと軽くバウンドするように柔らかな感触が弾けた。
「へ?」
状況が呑み込めなくて、気の抜けた声だけ漏れたんだけど、間髪入れずに今度はカプリと唇で唇を軽く啄まれた。
「……へ?」
「じゃあ、また明後日」
浩太郎はそれはそれは爽やかな王子様フェイスで微笑んで、玄関に向かっていった。
見送りも忘れて汚部屋で仁王立ち状態。
どういうことだ? あれはキスだろ? え、バイバイの挨拶か? 奴は帰国子女かなんかか? そもそも挨拶で唇同士くっつける国あったっけ? え?
……意味がわからない……。
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