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だがどうしたことだろう。
彼はベイジルが期待していた反応とは随分違っていた。
ベイジルの言葉を聞くなり、象牙色の肌は赤黒く変色していく。
「なんだって? 赤ん坊だと?」
彼は眉尻を上げて、あろうことか怒鳴ったではないか。
「あの……」
きっと自分の聞き間違いだ。
ベイジルは自分に言い聞かせ、ふたたび彼に尋ねようとしたものの、けれどもベイジルよりも先に彼は口を開いた。
「これだからオメガは嫌なんだ。ちょっとちやほやしただけですぐに調子に乗りやがる! さすがはオメガ。孕むことに関してだけは逸品だな。だがいいか? 俺は近々、社長に就任する。今の社長令嬢と結婚してな! お前はただの暇つぶし。それさえもわからないのか。本当にオメガってのは馬鹿だな……」
続けざまの言葉は鋭い刃となり、容赦なくベイジルの胸を貫いていく。
果たして彼は本当にあの心優しいスターリー・ジギスムンドだろうか。
苦しい時や悲しい時はいつだって自分を慰めてくれたし、こうして傍にいてくれもした。
それなのに、今の彼はベイジルが思っていたその人とはまったく別の人間だった。
次から次へと吐き出される醜い言葉の数々に打ちのめされたベイジルは息を飲んだ。
もう何も言えない。
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