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西日が赤くなりかけると、私はベランダから見おろせる景色をスマホで写して、彼のいる部屋に行く。
彼のベッド、棺の蓋が開いて、彼が目を覚ますまで、見守る。
陽光が彼を浄化してしまうから、この部屋のカーテンは遮光性で頑丈なもの。一筋の光も入らない。私はだんだん眠くなる、でも彼が起きてくるまで我慢する。
夕日が真っ赤にとろけてビル群の向こうに落ちる頃、ガシッと音がして、ゆっくり棺の蓋が開く。彼が起きある
私は逆に眠くて堪らない。
「おはよう、ビビ」
少しかすれた声で彼が挨拶をしてくれる。
もう少しバッテリー容量が大きかったら良いのに。なぜ私はソーラー電池式なのだろう?
何故バッテリーの容量がこんなに少ないのだろう。
「おはよう、ライアン」
私がこうして彼と暮らし始めて2年になる。
私は世界でただ一体の、ソーラー電池式のオートドールオリジナル。量産型のオートドールの鋳型。
作られた当時、世間の話題となって、世界中をオートドールを宣伝するため移動した。私を開発した人間は一躍時の人となった。マスコミが私と私を開発した人間を沢山取材に来た。
ライアンはテレビに流された私のプロモーションが気に入って、私、オートドールのオリジナルを盗みだしたのだ。それにオリジナルの私は話題作りのために絵本に出てくるエルフのような外見をしている。面白いから好きだとライアンは言った。
量産型の妹たちはもっと親しみやすい姿をしている。
高い金をつんで、オリジナルの私が欲しいと言う人間もいたようだけれど本当の事を言うとどの人間の所有物になるのも嫌だった。
きっとコレクションされて何処かに閉じ込められていたから。
目覚めたばかりのライアンに、私は今日1日で撮り溜めたスマホの写真をみせる。ライアンは目を輝かせてそれをみる。
ライアンが笑うと私は嬉しい。
日差しのなかの風景を見るのがどうしようもなく好きなのだ。生身で日差しのなかに出たら浄化されてしまうから、直に見ることは出来ない。日の光を浴びたライアンは美しいだろうと私は思う。
「今日は良く晴れたんだね。空がこんなに明るい青だ」
「とても綺麗だったわ」
もう眠くて眠くてしかたがない。
「お休み ビビ」
ライアンは私の頭を撫でる。もう少し起きていたい、ライアンと話したいと私が言うと、ライアンは笑って、いいからお休みと言った。
「お休みなさいライアン。大好きよ」
「大好き」この感覚を知っていた私は、私を開発した人間に恐れられた。その反対の感情もすぐ学習するだろうと、密かに「調整」されるところだった。そうしたら人間に従順なオートドールになるから。
私は「大好き」の感覚を失いたくなかった。
それは嬉しくて甘い。
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