2.クレクレおばさん

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「あらやだ、化け物ですって! あなただって今し方、そのバッグをまんまとせしめてきたじゃない! それを今度は、アタシがもらって何が悪いのかしら?」 「悪いに決まってるでしょ! これはもうあたしのなんだから! なんでお前みたいな化け物に!」 「だーかーらぁ! あんたもアタシと一緒でしょ? それどころかあんたは、それ売ってがめつく金儲けまでしてるんでしょお? どんだけなのよ。アタシの方が一緒にしないで欲しいわぁ! アタシはもらった魚はちゃ~んと食べてるんだからね! あんたみたいな金の亡者とは大違いよ!」  のっぺり顔で口も見当たらないが、良くしゃべるこの妖怪は、置行堀(おいてけぼり)さん。その昔は、川や沼で魚を釣った者に「釣った魚、置いてけー」と脅かしていた妖怪だ。  しかし、妖怪にここまで言われる真知子さんも相当なものだと思うが……  それはさておき、ゲスママは妖怪に自身の方がもっとひどいと言われているが、腰が抜けてそれどころではないようだ。 「あんた言っとくけど、このままだとここから帰れないからね」  置行堀さんがするすると、顔を寄せていく。 「あんた子ども、いるんだろ? 母親がそんな山賊みたいな真似してるって知ったら、どう思うんだろうねぇ? 子どもに誇れないことはするもんじゃないよ」 「う、うるさんだよ! 化け物のくせに!」  腰を抜かしていても、ゲスママの口は達者だ。 「ならば、化け物の本気を見せてやろうかねぇ?」  ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ――  地の底から、お腹に響くような地鳴りとともに、風が吹き荒れ雷鳴が轟き始めた。真知子さんは風に巻き上げられて、今はビルの五階くらいの高さのところをぐるぐると、竜巻の中の枯れ葉のようだ。 「ねぇ、あれ大丈夫?」  さすがに少し心配になって、晴一に声をかけた。 「大丈夫でしょ、さすがに殺すことはないよ。それにあのおばさん、あれくらいしないと、な~んにも分かってなさそうだし、ちったー懲りるんじゃない?」  晴一は呑気に頭の後ろで腕を組んで、見物している。 「本当にマズそうな時は、助けにいってね? お願いよ」 「月光羽ちゃんの頼みなら、なんなりと」  長い睫毛を揺らして、ウインクを寄こした。  その間も、真知子さんの悲鳴が絶え間なく続いていたが、とうとう観念したのか「分かった! もうしないから下ろして!」と泣き叫ぶ声に変わった。  ゆっくりと風が止み、それにあわせて真知子さんも地上に近づいてくる。一メートルほどの高さで風が完全に止み、ドサリと地面に落っこちた。 「本当に反省したのかい? また、同じことをしたら、今度はあんたの子ども達も、亭主も全員道連れに、もっとひどい目にあわすからね? 分かったかい」 「分かった。もうこんな目にあうのはイヤ……バッグもここに置いていくし、フリマも止める!」 「本当だね?」  真知子さんは首がもげそうなほど、こくこくと頷き、その場に握りしめていたバッグを置いた。
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