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「あらやだ、化け物ですって! あなただって今し方、そのバッグをまんまとせしめてきたじゃない! それを今度は、アタシがもらって何が悪いのかしら?」
「悪いに決まってるでしょ! これはもうあたしのなんだから! なんでお前みたいな化け物に!」
「だーかーらぁ! あんたもアタシと一緒でしょ? それどころかあんたは、それ売ってがめつく金儲けまでしてるんでしょお? どんだけなのよ。アタシの方が一緒にしないで欲しいわぁ! アタシはもらった魚はちゃ~んと食べてるんだからね! あんたみたいな金の亡者とは大違いよ!」
のっぺり顔で口も見当たらないが、良くしゃべるこの妖怪は、置行堀さん。その昔は、川や沼で魚を釣った者に「釣った魚、置いてけー」と脅かしていた妖怪だ。
しかし、妖怪にここまで言われる真知子さんも相当なものだと思うが……
それはさておき、ゲスママは妖怪に自身の方がもっとひどいと言われているが、腰が抜けてそれどころではないようだ。
「あんた言っとくけど、このままだとここから帰れないからね」
置行堀さんがするすると、顔を寄せていく。
「あんた子ども、いるんだろ? 母親がそんな山賊みたいな真似してるって知ったら、どう思うんだろうねぇ? 子どもに誇れないことはするもんじゃないよ」
「う、うるさんだよ! 化け物のくせに!」
腰を抜かしていても、ゲスママの口は達者だ。
「ならば、化け物の本気を見せてやろうかねぇ?」
ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ――
地の底から、お腹に響くような地鳴りとともに、風が吹き荒れ雷鳴が轟き始めた。真知子さんは風に巻き上げられて、今はビルの五階くらいの高さのところをぐるぐると、竜巻の中の枯れ葉のようだ。
「ねぇ、あれ大丈夫?」
さすがに少し心配になって、晴一に声をかけた。
「大丈夫でしょ、さすがに殺すことはないよ。それにあのおばさん、あれくらいしないと、な~んにも分かってなさそうだし、ちったー懲りるんじゃない?」
晴一は呑気に頭の後ろで腕を組んで、見物している。
「本当にマズそうな時は、助けにいってね?
お願いよ」
「月光羽ちゃんの頼みなら、なんなりと」
長い睫毛を揺らして、ウインクを寄こした。
その間も、真知子さんの悲鳴が絶え間なく続いていたが、とうとう観念したのか「分かった! もうしないから下ろして!」と泣き叫ぶ声に変わった。
ゆっくりと風が止み、それにあわせて真知子さんも地上に近づいてくる。一メートルほどの高さで風が完全に止み、ドサリと地面に落っこちた。
「本当に反省したのかい? また、同じことをしたら、今度はあんたの子ども達も、亭主も全員道連れに、もっとひどい目にあわすからね? 分かったかい」
「分かった。もうこんな目にあうのはイヤ……バッグもここに置いていくし、フリマも止める!」
「本当だね?」
真知子さんは首がもげそうなほど、こくこくと頷き、その場に握りしめていたバッグを置いた。
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