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1.お悩みは野良猫に
「オーイ! 月光羽! 新しい依頼きたぞー!」
真っ白な被毛の大きな体が、しなやかに窓枠を飛び越え、カーペットを三歩踏んだ。それは音も立てずに、一気にデスクの上に駆け上がってきた。すうっと私の目を覗き込む瞳は、右目がブルーで、左目がゴールドのオッドアイ。色違いのこの瞳で見る景色は、どんな風に見えるのかと、いつも想像してしまう。
「どんな依頼なの?」
私は眼鏡ごしにモニターから一瞬だけ視線を向け、キーボードを打つ手を止めずに聞いた。
「なんだよー。せっかく話し聞いてきたのに、つれないなー」
ちゃんと聞かないと教えないぞ、と大きな白い猫は、キーボードを踏みつけ、モニターの前に座り込んだ。ツンデレか。オスのくせに。なんともかわいらしいこの態度はいかがなものかと、思うものの毎回その術中にはまり、仕事を中断することになるのだ。もう何百年も生きている化け猫のくせに。おっと、化け猫はちょっとひどかったかな。大事な仕事のパートナーだしね。猫又。それが、この仔の正体だ。ふだん尻尾は一本だけどね。
端から見たら、今の私は大柄な猫を相手にちょっとひと息、といったふうに見えるだろう。本当におしゃべりしているなんて、思いもよらないだろう。それも大切な話しをしているなって。
「もう、わかった。ちゃんと聞きます」
キーボードから手を離し、お手上げとばかり、両の手のひらを見せた。フッと息をつくと、口角が自然と上がる。この真っ白のもふもふには敵わないな。
ご機嫌をとるために、そのあごの下に指を差し入れる。白とベージュピンクで塗り分けた、お気に入りのネイルが、白い被毛の間で動く度に、ゴロゴロと気持ちよさそうにのどを鳴らす。この辺りの仕草はは、やっぱり猫だ。
「しょうがないなぁ、ちゃんと聞いててよ。あのね、おじいちゃんの運転を止めさせたい女の子がいるんだって」
「あぁ、最近高齢者の事故のニュースが多いアレね」
そうそうアレ、と細長い瞳孔を広げ前のめりになる。
その目に吸い寄せられるように、私は眼鏡を外すと、その白い猫の目を見つめた。
「知らせてくれてありがとう雪希」
頭をなでてやると気持ちよさそうに、目を細め鼻先を持ち上げる。
「じゃぁ、もうちょっと詳しく聞かせてくれる?」
すっかり機嫌がなおった雪希に笑いかけた。「うん。いいよー」
前足をちょこんとそろえ、おぎょうぎ良く座ると雪希は話しを続けた。私の仕事に直結する大切な話を。
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