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プロローグ
「ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥はげた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいないーーー」
ある日の暮れ方のことである。
一人の少女が片手に本を持ち、もう片手で傘を差しながら羅生門跡で雨止みを待っていた。羅生門跡と書かれた石碑の近くには、この少女の他に誰もいない。
ただ、所々塗装の剥げた細い滑り台の円柱にヒグラシが1匹とまっている。
羅生門といえど、今はただの公園だ。急ぎ足で帰宅するサラリーマンが時々通るそんな寂しく小さい公園である。
そのためか、その公園には少女の他に誰もいない―――。
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