演劇

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演劇

 時は戻って二日前。 「羅生門?」 「そう」  とある高校の演劇部には三人の少女と二人の少年がいた。どうも次回の公演について話しているようだった。  その話し合いの中で出たのは次の演劇は芥川龍之介作、『羅生門』を演劇用に改変したものにしようというものだった。  『羅生門』というのは少年少女にとって最近の現代文の授業で扱ったもの。正直に言うと、少女たちからはやりたくないという意見が出た。それもそうだろう。三人のうち、誰か一人が醜い老婆役をしなくてはならないのだから。 「でも、人数的にはこれが最適解だろ? 照明、音響に一人ずつ取られるとして、セットとかは役者でもできなくはないから、除く。そうすると演者は三人。俺はこれ以上のアイデアを出せない」  そこまで言うと少女たちは黙り込む。確かにそうだろう。学生がやるものも基本は人数が必要になってしまう。この『羅生門』は場面転換も少なく、舞台は羅生門の一か所のみ。道具類は少なくて済む。その上、作品上に登場する人物は下人と老婆のみ。後はナレーターを付け加えれば、かつかつであるものの、最低限舞台は完成する。  ましてやこの学校の演劇部はこの五人。これ以上の適する作品は見つけられないだろう。今までは先輩がいた、他にも同輩がいた、後輩がいた。しかし、ある一人が原因でこの部活はバラバラになってしまった。 「……あんなことがあったばかりでこんな暗い話題をやりたくない」 「でもさ……」 「でも! やるかやらないかは別。私は乗り気ではないけどやる」  一人の少女がそう言った。どこか遠いところを見つめるように。羅生門だし、どこかで会えるかもね、と悲しそうに笑いながら付け加えて言う。 「なら、私も」 「私もやるわ」 「……ありがとう。じゃあ、キャスティングをしよう。脚本は一応作ってみたんだ―――」  少年少女は改めて話し合いを始める。ここはこうじゃない、こうだ。いいや、こうするといいと思う、などと作品を良くしようと奮闘しているのであった。
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