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アルフォンスは計略をめぐらす
雲一つ無い晴天の下、王宮へ向かう馬車の中は暑く、窓を開けても生温い風が顔に当たる。
隣に座られるのは暑苦しいからと、向かい側に座るように頼んできたシュラインが小さく息を吐いた。
「大丈夫か? 不安ならば、体調不良で欠席ということにしてもかまわない」
「大丈夫です。今回のお茶会は王太后様にも何かお考えがあって開くのでしょうから」
緊張を和らげるように笑みを作るシュラインを案ずる一方で、暑さから髪を結い上げているシュラインの白い首筋と胸元へ、どうしても視線がいってしまう。
「不安だ」と一言でもシュラインが口に出したならば、王太后宮へ行かせず無理矢理にでも執務室へ連れて行き、休ませるという口実で仮眠用ベッドに寝かせ彼女を堪能するのに。
(母上と王妃が揃った茶会など苦痛でしかないだろう。私が同席をするのは元老院会議があるため無理か。いっそのこと会議を延期するか。それとも代役をたてるか)
良案が浮かばないまま、馬車は王宮の敷地内へと入って行った。
「いってきます」
王太后に仕える使用人達に先導されたシュラインの背中を見送り、彼女が宮殿内へ入るのを確認するとアルフォンスは柔和な笑みを消す。
「……動きがあったら直ぐに伝えろ」
影に潜んでいた暗部の者が動く気配を感じ取り、アルフォンスは中央宮殿へ向かって歩き出した。
王妃が茶会へ出掛けて暇なのか、珍しく国王ヘリオットも出席した会議は大した議論も出来ず、重い空気に包まれていた。
森林火災と不作に苦しむ地方への支援と減税が議題だというのに、論点のずれた事を言い出すヘリオットへ苛立つ議員達を宥める役目など冗談ではない。
こんな会議は時間の無駄だと、早々に判断したアルフォンスはヘリオットの発言を遮り口を開いた。
「そのように持論を展開させるのでしたら、陛下には我等を納得させる代案があるのでしょうね」
「なんだと?」
「不作と災害で苦しむ民の救援よりも舞踏会を優先しろとおっしゃるのですから、先ずはこの私を納得させていただきたいのですよ兄上」
“陛下”ではなく“兄上”と逆撫でするように言えば、ヘリオットは眉を吊り上げ怒りを露にする。
「アルフォンス! 国王の意見を蔑ろにするつもりか!」
「蔑ろもなにも、兄上が決まりかけた事を却下するようおっしゃるのですから困惑しているだけです。民の救援よりも重要だという、兄上と義姉上が主催する舞踏会とやらの価値を教えていただきたい」
「リリアは隣国との友好を深めようとしているのだ! それを貴様は価値が無いと言うのか?! 不愉快だ!」
ダンッ!
唾を飛ばして叫ぶヘリオットが円卓を力一杯殴り付け、壁際に立つ護衛騎士が身構えた。
「これは申し訳ありませんでした。私がいては不愉快でしょうから、私は退席させていただきます」
無表情のまま頭を下げ席を立つアルフォンスは議員達を一瞥し、議長を務めるカストロ公爵と視線が合う。
「任せた」
渋い表情のカストロ公爵は不承不承の体で頷き、アルフォンスは口角を上げた。
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