彼女を手に入れるために葛藤し、身悶える

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 椅子に座ったシュラインの傍らに片膝をつき、膝の上に彼女の左足首を乗せる。内出血で赤紫色になっている左足首に軟膏を染み込ませた湿布を当て、上から丁寧に包帯を巻いていく。  ついでに、剥き出しの脹ら脛の感触を味わうように数回撫でてアルフォンスは小さく息を吐いた。 「あの、アルフォンス様? どうされたのですか?」  甲斐甲斐しい世話を焼きつつも必要以上に触れてくるのは変わらないのに、今日のアルフォンスには憂いが混じっている気がしてシュラインは問う。 「ふっ、シュラインは可愛いな、と再確認していたのだよ」 「な、何をっ?」  そっと足首を膝から下ろし立ち上がったアルフォンスは、戸惑うシュラインの肩を抱き寄せる。  前髪を掻き分け、ちゅっとリップ音を立てて額に口付ければシュラインの頬は赤く染まった。 『失礼しました』  ヘンリーの告白を受けた後、何とか冷静さを取り戻した風を装ったカストロ公爵は、若干青ざめ固い表情でアルフォンスを見下ろした。 『流石、アルフォンス殿下ですね。王妃が企てた下らぬ計画を知ってもなお、冷静沈着でいらっしゃるとは』  怒りと軽蔑の感情を隠そうとしない義父から吐き捨てるように言われ、アルフォンスは笑い出しそうになった。 (私が冷静沈着、だと? 何を根拠にそんなことを言っている?)  幼少期から培った完璧な仮面によって、内面に渦巻く激情を隠しているだけだというのに。 (シュラインの体に触れ、傷付けた者は八つ裂きにしてやる)  今すぐ、下らない計画を企てる王妃と男爵令嬢を八つ裂きにしたい衝動と、シュラインが傷付けられるかもしれないという焦りで体が震え出しそうになる。  誘拐計画が与える自分とシュラインへの影響、王位簒奪後の国内外への影響について。怒りの衝動を押し留めるため、アルフォンスは脳内でいくつもの策を巡らしていた。 「シュライン」  名を呼べば戸惑いつつも、抱き締めるアルフォンスの胸に頬を寄せてくるシュラインは可愛いらしくて、改めて彼女への愛しさを認識した。 「あの、アルフォンス様」   視線を逸らしたくなるのを堪え、シュラインはアルフォンスの顔を見上げる。 「どうした? 体調が悪いのか?」 「体調は問題ありません。あの、アルフォンス様。痛みと腫れは治まってきましたし部屋の外、せめて庭へ出たいのです。部屋にばかりこもっていたら、息が詰まります」  王妃に扇で叩かれ、内出血で青くなっていた頬も大分色が薄くなってきた。  侍女と護衛騎士の監視下でもかまわないから、部屋の中から出たいとシュラインは訴える。 「外へ、か」  口元へ手を当てたアルフォンスは、暫時思案してからニヤリと笑う。 「そうだな。貴女が、可愛らしくねだってくれたら、考えよう」 「っ?!」  意地悪な、しかし期待に満ちた笑みを浮かべたアルフォンスに見詰められて、シュラインは恥ずかしさで体を縮こませる。  ぎゅっと握った両手を胸元に当て、シュラインはアルフォンスを真っ直ぐ見詰めた。 「アルフォンス様、外に出たいの。お願い」  アルフォンスの着るジャケットの肘部分を掴み、じっと上目遣いで見上げる。  口を半開きにして何も言わないアルフォンスを見上げ、これでは駄目なのかと不安と羞恥心からシュラインの眉尻が下がっていった。 「だめ?」  段々と悲しくなり、シュラインの瞳に涙の膜が張っていく。 「ぐっ、」  苦しそうに呻いたアルフォンスはグッと目を瞑った。 「まさか……破壊力が、こんなに、くっ」  眉尻を下げ上目遣いでおねだりするシュラインは、普段の彼女以上に弱々しく見えて庇護欲を掻き立てられる。  怪我を負っていなければ抱き上げベッドへ向かっていた。傷を負わせた王妃への怒りが沸き上がってくる。  片手で顔を覆ってブツブツ呟くアルフォンスに、シュラインは首を傾げてしまった。 「はぁ、すまない。これ以上は私がもたない。部屋の外へ出ることを許可するかは、追々連絡する」 「えっ、あのっ、アルフォンス様?」  突然、背中を向けたアルフォンスは片手で顔を覆い、足元をふらつかせて部屋から出て行った。 「奥様はお気になさらず、では私も失礼いたします」  主の葛藤を覚り笑いを必死で堪えるフィーゴは、困惑するシュラインへ一礼をしてアルフォンスの後を追って行った。
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