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半焼して改装中の王族居住区とは反対側に用意した部屋へ向かうと、ワンピースの上からショールを羽織ったシュラインが出迎えた。
「シュライン」
普段より楽な服装のシュラインは今朝よりも顔色は良くなっており、アルフォンスは安堵から引き締めていた口元を緩ませる。
「お帰りなさいませ、アルフォンス様」
「体調を崩したと聞いた。大丈夫なのか?」
頬をを包み込むように触れるアルフォンスの両手に自分の手を重ね、シュラインは目を細めた。
「風邪をひいただけですし、皆が気遣ってくれますから大丈夫ですわ。アルフォンス様こそお疲れではありませんか」
「愛しいシュラインに逢えれば疲れなど全て吹き飛ぶよ」
ちゅっ、リップ音を立てて唇へ口付ければシュラインの顔が赤く染まる。
「愛してるよ」
「あ、あの、わたくしも、貴方が、好き、です」
全身を真っ赤に染めたシュラインは耐えられないとばかりに視線を逸らす。
互いの気持ちを確認してから幾度となく愛し合っているのに、彼女の中の羞恥心は無くなってくれないらしい。
愛の言葉を囁くだけで恥じらい身を縮める初なシュラインが可愛くて、アルフォンスはソファーへ押し倒したい衝動を僅かに残った理性をかき集め抑える。
「アルフォンス様?」
息を荒くするアルフォンスをシュラインは上目遣いで見る。
ぶちんっ
すり減った理性の糸がぷつりと切れる音がアルフォンスの脳内に響いた。
「くっ、可愛すぎるっ!」
「きゃあっ?!」
勢いよくアルフォンスに抱き締められ、そのまま幼子を抱くように縦抱きにされたシュラインは悲鳴を上げた。
「はぁ、そろそろ戻らなければならないか」
膝に座らせたシュラインを好き放題愛でていたアルフォンスは、壁掛け時計を見上げ呟いた。
腕の中に閉じ込めていたシュラインを解放し、名残惜しいと彼女のこめかみへ口付けを落とす。
「アルフォンス様、あっ」
アルフォンスを見送ろうと、立ち上がったシュラインの視界が揺らぎ足元をふらつかせた。
「大丈夫か?」
倒れそうになるシュラインを片手で抱き止める。
「少し目眩が、すみません」
「いや、私こそすまなかった。抑えられず無理をさせてしまった。……侍医を呼べ」
部屋の隅に控える侍女へ命じ、会釈をした侍女は侍医を呼びに出て行った。
「妃殿下はお休みになられました」
診察を終え寝室から出てきた初老の侍医は、足を組んでソファーに座るアルフォンスへ頭を下げた。
「で、どうなのだ?」
「しばらくの間は安静が必要です」
「安静? 風邪をひいたと聞いたが、酷いのか?」
立ち上がりかけたアルフォンスは、彼が赤子の頃より知っている侍医も初めて見る姿で、思わず両目を細め微笑んだ。
「いえ、風邪ではありません。殿下、おめでとうございます。妃殿下はご懐妊されていらっしゃいます」
「は?」
侍医の言葉を直ぐには理解できず、口をポカンと開いたアルフォンスは口と同じく開いたままの目を数回瞬かせた。
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