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ヘンリーが学園へ入学した頃から王位簒奪の準備を進め、最終学年に上がるまでにアルフォンスが元老院と主要貴族を、カルサイルが騎士団を掌握したのは知っていた。
「何をおっしゃるのですか母上。私が尊敬する兄上を弑すなど、恐ろしいことを企てるわけないでしょう。王位の簒奪? 元老院の不満を抑えるためには、シュラインを手に入れるためにはカストロ公爵を納得させなければならなかった。私は、苦渋の選択をしたまでです」
「苦渋の選択、ねぇ」
「おや? 母上はエレノアの子を王位に据えられないのがご不満ですか?」
挑発的な問いに王太后の顔から表情が消える。
「いいえ。正当なる王家の血を持ち、賢王と成れるだろう貴方が王と成るのですから、不満などありません」
「ヘンリーも正当な王家の血を持っておりますよ」
「享楽に溺れた品格無き者は王座には据えられない」
感情のこもらない、冷たい表情と声で王太后は吐き捨てた。
「貴方とシュラインの子は優れた王となるでしょう」
「……母上、全ては貴女の望み通りということですか」
影からの報告では、王族の権威を失墜させかねないヘンリーを諌めず、男爵令嬢との交際を正当化させるようにヘリオットとリリアの純愛話を聞かせたのは、優雅に紅茶を飲む王太后。
シュラインとの婚姻を持ちかけたのも、カストロ公爵と元老院を王家へ繋ぎ止めアルフォンスが国王夫妻を廃すよう仕向けるため、だとしたら。
「ええ、わたくしの望み通りアルフォンスが国王と成ってくれて、孫まで出来るなんて嬉しいわ」
悪びれもせずクスクス笑う王太后と、母親を睨むアルフォンスの間に冷たい空気が流れた。
***
夜半、侍女からアルフォンスの来訪を告げられたシュラインは、クッションを敷き詰めたソファーから立ち上がった。
「起きていて大丈夫か?」
「今日は朝から調子が良いの」
「そうか」
目を細めたアルフォンスはシュラインの肩を抱き寄せ、ソファーの背凭れに掛かっていたショールを彼女の肩へ掛ける。
「王太后様はお元気でしたか?」
シュラインに問われアルフォンスの眉間に皺が寄る。
「相変わらずの狐っぷり、いやお元気な様子だったよ。シュラインの体調を心配されていた」
「悪阻も落ち着いてきましたし、近いうちにご挨拶に伺わないと、って何をなさっているのかしら?」
肩を抱きながらシュラインの首へ顔を埋め、背中から尻を撫で下ろす不埒な動きをし始めた夫の手をぺチンと叩いた。
「今日は、久しぶりに母上と話して疲れた。明日は朝から、面倒な議会があるからシュラインを補充しているだけだ。……愛しているよ」
「も、もうっ」
耳元で愛を囁くだけで全身を真っ赤に染めるシュラインが可愛くて、我慢出来なくなったアルフォンスは俯きかけた彼女の顎へ親指をかけて、上向きにさせる。
「アルフォンス様っ、まっ」
真っ赤に染めたシュラインが制止の言葉を紡ぐ前に、アルフォンスは食むように唇へ口付けた。
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