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ハッピーエンド、その後の話
数ヶ月前に戴冠式を終え、国王に即位してからアルフォンスは多忙な日々を送っていた。
国王夫妻の寝室へ戻るのが深夜になることも多く、妊娠中のシュラインの傍に出来るだけ居たいという願いはなかなか叶わない。
溜め息を吐きつつ、音を立てないように寝室の扉を開閉する。
「シュライン……」
無人のベッドを一瞥してから、ソファーに寝転がるシュラインを見付けたアルフォンスは頬をゆるめる。
完全に寝入っているシュラインの手は、編みかけのケープと編み棒を握っていた。
「風邪をひくぞ」
声をかけてもシュラインの目蓋は閉じたまま。
(最近は眠たくてしかたないと言っていたな)
起こさないように、そっとシュラインの体を抱き上げてベットへ向かう。
ボコンッ
「っ、」
腹部と腹部が密着しているため、シュラインの胎内を蹴った我が子の胎動がアルフォンスへ伝わり、その力強さに小さく呻いた。
「腹の中から邪魔をするとは」
苦笑いしてベットへ横たえたシュラインの膨らんだ腹部を撫でる。
ボコボコッと応えるように我が子は胎内で動き回り、シュラインの眉間に皺が寄った。
「これだけ元気だと男児か? 子が男児でシュラインに似ず私に似ていたら、はぁ……それはそれで困ったな」
「ん……」
激しい胎動を感じ、眠りが浅くなったシュラインの目蓋が揺れる。
「我が子でも、私以外の男がシュラインの乳を吸うのは、許しがたい。乳母に任せるのはシュラインが嫌がるだろうし、どうするか。私も同じように吸えば許せるのか?」
ぶつぶつ呟いているアルフォンスの声で、シュラインの意識は眠りの淵から浮上していく。
「ぅ、アルフォンス、さま?」
目蓋を僅かに開いたシュラインはアルフォンスへ向けて微笑む。
半ば夢現のシュラインの額へアルフォンスは「おやすみ」と口付け、彼女を抱くように横たわった。
一月後、シュラインは元気な王子を出産した。
疲労で意識を朦朧とさせるシュラインを労っていると、体を清めた我が子を侍女が連れてくる。
我が子を腕に抱き喜びの涙を流すシュラインに促され、初めて抱いた息子は髪と瞳の色以外は父親によく似ていた。
喜びと僅かな嫉妬が織り混ざった複雑な表情を浮かべ、アルフォンスは父親になった実感を噛み締めた。
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