君だけしか知らない僕の

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「チョコいちごクリームキャラメルアイストッピングは最強なんだぜ、覚えときなよ後輩くん!」 そして迎えた放課後は、まさに夢のような時間だった。 言われるがまま先輩に連れてこられた中心街は人と屋台とでごった返していた。先輩はさっきから苺のクレープを頬張ってご機嫌そうにしているし、受動喫煙で自分も幸せな気持ちになっている。 それに、学校の中で並んで歩けるだけでも嬉しかった自分が、今ははぐれない様にと本人の希望で手まで握れている。奇跡だ。神は奇跡を起こしたもうた。人混みサンキュー。 そんな荒ぶる感情を手にも顔にも口にも出さぬよう抑えながら歩く常陸の鋼の精神は最盛期を迎えていた。たとえ隣をちょこちょこ歩く先輩に「一口いるか?」とクレープを差し出されても、「恐れ多いんで大丈夫です」と言えてしまうくらいには。 「むーおいしいのに。……あ」 拗ねたように柚李がクレープ生地に大きくかぶりついたその時、土台が崩れてバランスを失ったアイスがクレープから溢れて、そのまま落ちた。このままでは服に、と察した常陸が咄嗟に空いた方の手を伸ばす。 「あー…」 べちょりとした嫌な感触と冷たさ。口の中に言えて終えばなんてことないのに、人間の体は不思議だ。 キャッチには幸い間に合ったものの、代償に手は悲惨なことになってしまった。 「わーーーーっごめん!待って待ってハンカチ…」 「アイスだしそっちのが汚れますって。えー…。あ、ちょっと手洗ってくるんで、待っててくれます?」 「え」 少し離れたところにトイレがあるのを見てそういうと、先輩は不安そうな声を上げた。男女はっきり分かれてるタイプだしちょっと道逸れるし、人の多いところで待ってくれた方がいいと思うんだけど。どうしたんだろう。 しばらく一人になるのを渋っていた先輩だったが、このままではどうにもならないと悟ったのか、黙ってこくりとうなずいた。 「…なるべく早く帰ってきてな。人混みに負けちゃうから」 そう苦く笑う想い人のやたら心細そうな声に、一も二もなく頷いて常陸は駆けた。
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